データ分析チームのあるべき姿

データ分析チームの失敗例


経営層から「当社はこれからデータ活用に取り組んでいく」という旨の号令がかけられると、新たにデータ分析チームの箱が作られます。そしてまずは何はともあれデータサイエンティストやデータアナリストが必要ということで、そうした人材が社内外から集められます。


しかし、残念ながらその後彼らが思ったような成果を出してくれないとして失敗に終わるというケースはよく聞く話です。


そもそもただやみくもに人材を集めただけでは、チームとしてのパフォーマンスは十分に発揮されません。まずはチームとしての目的や役割を明確にすべきです。


そしてそれを達成するために必要なのはどのような人材か検討の上、それに適した人材を集める必要があります。なお、人材を集めてからチームの役割を定めていく順序だと、アンマッチが起こる可能性が高まります。


よくある失敗例としては、機械学習が得意でそのスキルを活かしたいと考えている人材を採用したが、そもそも機械学習を活用できるような業務がなかったとか、データ活用に関するコンサル経験豊富な人材を採用したが、そもそも社内のデータ分析環境が整っておらずデータを十分に使える状態でなかった、などが挙げられます。


かといって前者のような人材にコンサル業務をやらせたり、後者のような人材にデータ整備やエンジニアリング業務をやらせたりするのは、適材適所でないだけでなく、彼らのモチベーションにも悪影響を与えるためあまり宜しくありません。


データ分析チームのリーダー


チームの目的や役割を明確にする上で重要なのがチームリーダーのアサインです。チームの具体的な目的や役割が経営層から落ちてくることはあまりなく、基本的には人材集めからチーム運営までそのリーダーに任されるので、その後どのようなチームになっていくかはリーダーの影響が非常に大きいと言えます。


特にデータ分析チームは、その企業にとって過去にない新たなチームであることが多いので、初期のチームとしての目的や役割がまだ明確でないような状態では、率先して行動を起こしチームの方向性を示してくれるようなリーダータイプが向いているのではないかと思われます。


一方ある程度チームの目的や役割が明確化され、メンバー各自が何をすべきか理解できている状態では、彼らのパフォーマンスが最大限発揮できるようメンバーの管理に長けたマネージャータイプが必要になってくると考えられます。


しかしそもそも世の中にデータ分析チームのリーダーとしての実績のある方はまだまだ少なくそのような人をタイミング良く採用できるとも限らないので、データ分析チーム立ち上げ初期のリーダーとしてアサインされているのは、マネージャ経験のあるどちらかといえばマネージャータイプの人、もしくは分析チームのリーダーやマネージャー経験はないがデータサイエンティストとしての経験がある人のいずれかであることが多いようです。


私自身も分析チームのリーダー経験はなく元来リーダータイプの人間でもなかったにも関わらず、リーダーについたことがあります。ただチームとしては一からの立ち上げではなく、多少なりとも役割が備わっていたため、なんとかマネジメントに注力することでチームとして機能させることはできました。


しかしさらにチームとして高パフォーマンスが出せるよう、元々の役割やチームの目的などを途中から軌道修正していくのは結構苦労しました。


データ分析チームの目的と役割


繰り返しですが、データ分析チームの目的と役割をまず最初にきちんと設計することが重要です。


ではどういった目的や役割を定めていけば良いのか、それを考える上で他部署との関係性は無視できません。データ分析チームは通常何らかの業務を主管かつ単独で担当するより、他部署の支援を行う間接部門である場合が多いからです。


そして他部署から期待されることも色々で、それによってデータ分析チームの役割も異なってきます。データ分析チームは他部署との関わり方によって、派遣型・受託型・提案型の3つの形態に大きく分けられるので、それぞれでデータ分析チームの目的と役割を考えてみたいと思います。

派遣型


各種業務部門にデータアナリストを派遣する形態です。KPIをどのように設計すれば良いか相談したい、業務状況をデータで細かく分析したい、販促施策の効果を定量的に見たいなど色々なニーズがあり、迅速かつ臨機応変に対応してくれるアナリストが求められます


アナリストとしても彼らの業務目標達成が自身の目的となるので目的は明確です。ただ、臨機応変な対応を求められるので、アナリストの役割に関しても流動的で、場合によっては単なるデータ取得やデータ分析以外のタスクを依頼される可能性もあります。


また業務側からの依頼に対して、どこまでやるか、どこまでこだわるかなどは良くも悪くも担当者次第になってしまいます。データ分析チームとも距離ができてしまうので、管理面で課題が生じる可能性もあります。そのため担当には一定のスキルや経験は前提条件となってきますし、業務部門と定期的にアナリストの役割のすり合わせや満足度の確認を行う必要も出てきます。合わせて担当者の仕事が属人化されやすいので、不測時の交代や補充がしづらいリスクもあります。

受託型


他部署から来た相談や依頼に対して、分析チーム内で都度担当者をアサインして作業を行い、分析結果やレポートなどをアウトプットとして納品する形態です。こちらは分析チームとして何ができるか、何をやるかあらかじめサービスメニューを決めておけば役割はシンプルでわかりやすいものとなります。目的も基本的には予定されるアウトプットをしっかり出すこととなり、それ以上ではないので、担当者からするとわかりやすく動きやすい形かと思います。


また依頼内容やレベルに応じてアサインする担当者を考慮することも可能になるので、ノウハウの共有や若手の育成もしやすくアウトプットの品質が比較的安定させられる傾向があります。また繁忙期や担当者不在時などの場合にも、メンバー間でリソースの調整もつけやすいのが特徴です。


ただし、派遣型と比べて業務部門との距離があるため、業務部門の動向などを踏まえた柔軟な対応や臨機応変な対応がとりづらくなりがちです。彼らの業務目標やビジネスへの貢献という意味では、派遣型よりはインパクトが小さく見られてしまうかもしれません。


さらに業務部門から見て依頼や相談に対する敷居が高く見えてしまっていたり、そもそもデータ分析チームに対するニーズなどが顕在化されていないと依頼そのものが少なくなってしまうため、次に出てくる提案型のように、時にこちらから業務部門への働きかけ(営業活動)やサービスメニュー(役割)を拡充していくこと等が必要になるかもしれません。

提案型


コンサル会社や分析サービス会社の形態です。まず営業や提案などデータ分析の仕事を獲得する活動から行う必要があります。事業会社においても、業務部門において分析のニーズがない/顕在化されていない場合は、こちらから課題のヒアリングやソリューション提案、実証実験(PoC)などをまず行い、業務部門側と目的と役割を都度すり合わせることから行います。


ただし、提案が受け入れられないケースもあるため、安定して仕事を獲得できるとは限りません。下手をすると、データ分析よりも提案活動の業務量の方が多くなってしまったり、案件獲得を重視するあまり安請け合いをしてコストパフォーマンスが悪くなったりするリスクもあります。


データ分析チームのあるべき姿


データ分析チームの形態によって、目的と役割があらかじめ設定できるものとそうでないものがあります。またそもそもの分析チームをどの形態で運営するのが良いかも要検討です。


大阪ガスのデータ分析チームなどは、事業部側にデータ分析のニーズやそれによって解決できる課題が顕在化していなかったため、提案型でスタートしたという話を聞いたことがあります。


またデータ分析というよりはデータそのものの可視化や分析技術を活用したシステムの導入等ややエンジニアリング寄りの取り組みを進めたい企業では、受託型のチームが置かれることがあります。(こちらは内製というよりはコンサル会社など外注であったりもしますが)


またビジネスのスピード感が求められるネット系の企業では、派遣型が多いようです。(以前私がいたSNS企業でも派遣型でした)


基本的にはどのような形態であっても、データ分析チームが何のために設置されたのか、どのような役割を担うのかが、経営層からチームのメンバーにまで明確に共有されている状態でなければならないと思います。そうでなければチームとしてパフォーマンスが発揮できないばかりか、そもそも立ち上げたデータ分析チームが成功なのか失敗なのかといった評価さえできません。


一応ですが、時にデータ分析チームは「何かはわからないがビジネスに大きなインパクトを与えるものを発見する役目」を担う場合もあります。それはそれでひとつの役割だとは思います。ただ、大航海時代の冒険隊ではないのですから、本当にそのような役割を担うことが優先事項なのかどうかは疑問に感じるところです。