仮説の立て方2 発想の仕方

はじめに


前回はまず仮説を立てるに当たって目的や状況(タイミング)をきちんと踏まえて行うことが大事であるという話をしました。そうでないと、その後に適切な検証やデータ分析ができなくなってしまったり、やってもあまり意味がないという事態に陥る可能性が高くなります。


仮説の立て方1 何の仮説を考えるのか - データ分析について色々と考えてみたブログ


改めてですが、終わったことの結果データをやたらめったら弄って何か気づくものがないか当てもなく探すよりも、あらかじめ課題や目的に対して一通り仮説を立てて、どのようなデータを取得できれば仮説の検証になるかといった設計をする方が分析として効率的です。


そして仮説を十分に考えられるようになるには、ドメイン知識やビジネスの知見も必要になります。また合わせて仮説の考え方のコツのようなものも身に着けておくと便利です。


データ分析における仮説不要論


一方で、例えば売上の変動に大きな影響をもたらす原因を調べるのに、仮説を考えてそのためのデータ収集の設計を行うということをせずに、とにかくありとあらゆるデータを集めて機械学習にかければ半自動的に売上データと相関の高いデータが見つかるとして、そうしたやり方がとられる場合もあります。


ただし、このやり方は「ありとあらゆるデータを集める」のが現状ではなかなか難しく前処理等も含めてコストが相当にかかることが多いので、逆に非効率になってしまう可能性も高いです。


いずれは、ディープラーニングのように自動的な特徴量抽出の技術がありとあらゆるデータにまで応用できるようになってくると、こうした手法も現実的になってくるかもしれませんが、当面はやはり仮説立案のスキルはデータアナリストには欠かせないものではないかと思います。


仮説の立て方(漏れを防ぐ)


さて、そのために今回は仮説を立てるコツをいくつか紹介してみたいと思います。


前回の例で5W1Hフレームワークを使いましたが、仮説を考える際に視点の漏れを防ぐという意味でこうしたフレームワークはおすすめです。他にも3C分析、STP分析、AISASなど色んなものがあるので、覚えておいて応用できると役に立つことがあるかと思います。


こうしたフレームワークは、マーケットや顧客の購買プロセス、マーケティング戦略立案といった大きな概念のものを、先人の知恵と経験によって、よく利用される切り口で構造的に漏れなく重複なく分解されたものなので、それらの視点を仮設立案時にも踏まえることで、漏れなく重複のない仮説が導き出される可能性が高まります。


仮説の立て方(アイデアを発想する)


あとアイデアの発想やブレーンストーミングなどで使われるオズボーンのチェックリストというものも便利です。


①他に使い道はないか(Put to other uses-転用)

②他からアイデアが借りられないか(Adapt-応用)

③変えてみたらどうか(Modify-変更)

④大きくしてみたらどうか(Magnifty-拡大)

⑤小さくしてみたらどうか(Minify-縮小)

⑥他のものでは代用できないか(Substitute-代用)

⑦入れ替えてみたらどうか(Rearrange-置換)

⑧逆にしてみたらどうか(Reverse-逆転)

⑨組み合わせてみたらどうか(Combine-結合)



データ分析で使用する場合は、目的や検証すべき仮説が不明で、どうしてもデータ起点に考えなければならないときに使ってみても良いかもしれません。


例として、販売履歴データを元に考えてみると以下のような感じでしょうか。


①普段行っている売上や客数の集計以外に他の使い道はないか

②他者(客、学者、他業界の分析者など)からこうしたデータをどう分析すれば良いかアイデアが借りられないか

③販売履歴とは別のデータで売上や客数を集計できないか

④長期間や粒度の粗い集計をしてみたらどうか

⑤粒度を細かく(月次、日次ではなく時間帯別など)集計してみたらどうか

⑥普段と異なる別のロジックで売上を集計できないか

⑦商品をカテゴリやサイズ、価格帯、メタデータ(健康志向商品、高品質商品など)などの別の切り口に変えて集計してみたらどうか

⑧集計せずに各明細データを細かく見て何かわからないか

⑨他の既存データと組み合わせて見えてくるものはないか


仮説の立て方(先の展開を想像する)


さて、最後に仮説を立てるのに最も基本かつ重要な要素についてお話してみたいと思います。


それは「想像力」です。


想像力といっても、何か普通ではとても考えつかないことを想像する力というわけではなく、まずは「先の展開を想像するかしないか」です。


仮説を立てるということは難しいことで、自分にはハードルが高いという風に感じている人も少なくないかもしれません。


しかし、まずは先の展開がどうなるか想像してみるだけでも仮説になります。


例えば、B2Cサービス企業で、20%OFFのキャンペーンを行うとどうなるか考えてみましょう。


幅広く告知を行えば、キャンペーン期間中は新規客がたくさん訪れ、客数が増えると思われます。しかし、基本的にキャンペーンを契機に来店しているので、それが終了するとそれらの新規客はいなくなってしまう可能性も高いでしょう。よって、合わせて定着化をさせるための工夫も必要ではないか?と仮説をひとつ立てることができます。そうすると、例えば来店時にキャンペーン終了後の訪問にもつながるようなサービス券を提供するとか、継続的にアプローチ可能なように連絡先を登録してもらうことを条件につけるなどのアクションも盛り込むことができるようになります。


また既存客に関してはどうでしょうか。既存客は普段から来店してくれている客なので、20%OFFにすると平常時より客単価が下がるので売上も落ちることが想像されます。もちろん既存客が普段よりもたくさん購入してくれる可能性もありますし、既存客の売上が下がってもそれ以上に新規客が確保できて全体の売上は上がるかもしれませんが、その保証はありません。このキャンペーンは幅広く告知を行うことが決まっていると、既存客は対象外とすることもできません。そうするといかに客単価を落とさないようにするかといった工夫も必要ではないか?と考えることもできます。例えば常連客の平均客単価が800円とすると、1000円以上お買い上げの場合に20%OFFなどの制約をつけるとか、20%OFFの対象商品をある程度高額なもの/利益率の高いものに限定するなど、利益をあまり落とさないような条件をあらかじめ付けておくことも可能となります。(客数への影響があるかもしれませんが)


こうしたことを想像していないと、定着化の工夫や客単価を落とさないための工夫などをキャンペーンにあらかじめ盛り込んでおくことはできません。後でデータを見て、客数は増えたが単価が落ちたのであまり売上も伸びなかったとか、キャンペーン終了後には客が定着せずに売上が元に戻ったとかがわかっても、後の祭りです。


ちなみに先の展開を想像するかしないかは、まずはスキルというよりは本人の意識次第なところがあります。


言われたことをただやるだけでよいという考えでいると、自分事であるという意識が薄いため、やったあとどうなるかあまり想像しないのではないでしょうか。同じように頼まれたデータを出すだけでよいという考えでは、提出したデータがそのあとどのように活用されるのかあまり気にしないため、「本当にそのデータで良いのかどうか」すら考えられなくなります。


なるべく思考停止せずに、次の展開を想像してみることを常に意識したいものです。


あとついでに、「先の展開の想像」も漏れなく重複なくできると良い仮説が立てられるようになります。


先ほど紹介したフレームワークを使うのもありです。先の例では、3C分析の客側の視点で考えてみました。コンペティター(競合)の視点で見てみるとさらに他の仮説も思いつくかもしれませんね。その他にも、逆・反論の立ち位置で考える、上位概念/下位概念の立ち位置で考える、他に見落としているステークホルダー(利害関係のある関係者)の視点がないか考えてみる、なども良い仮説が見つかることもあるのでおすすめです。



仮説の立て方第三弾
仮説の立て方3 原因を探る - データ分析について色々と考えてみたブログ