KPI設計の基本

KPI設計は難しい


KPIを設定している企業や組織はたくさんありますよね。


うまく運用できているところもあれば、そうでないところもあると思いますが、大体最初にどのような指標をKPIとするかの設計業務はみなさん苦労されていると聞きます。


KPIをテーマにした研修やビジネス書などもあちこちで見かけます。それだけ奥が深く難しい業務なのではないかと思います。


昔はこのKPIの設計とモニタリングは、経営企画や経営管理といった部署が行う業務でしたが、今はデータアナリストが関わるケースが増えていて、我々の主要な仕事のひとつになっています。


ということでデータアナリストならばこうした業務はほとんどの人が経験しているでしょうから、同じように苦労したことのある人も多いかと思います。


私も長年データアナリストをやってるので経験だけは積んでますが、毎度苦戦しており、効率的かつ効果的なやり方を未だに模索中といったところです。


KPI設計が難しい理由


KPI自体は指標として使われる定量的な数値なのでシンプルなものですが、その使用対象や範囲は非常に大規模になることがよくあります。


例えば、企業全体の売上の目標管理などですね。


この場合、そもそもまず企業の経営や売上の構造が明確な形で整理されていなければ、KPIをどの指標にすれば良いのか判断できませんし、無理に設定しても機能しません。


そのため、経営戦略から現場のアクションまでの縦の一貫性、間接業務や取引先など周辺や横の関わりといった複雑な構造をまず紐解く必要があります。


さらにそうした構造が最適なものであるかどうかは不明なので、ひょっとするとまず最初に構造改革(業務プロセスあるいはビジネスモデルの修正)を行う必要も出てくるかもしれません。


ステークホルダーや関連する人々も非常に多数になり、なかなか皆が全て納得できるものに仕上げるのも大変です。


また売上目標管理以外にも、組織や人材の評価管理であったり、製造業などでは生産計画の管理に使用されていたりすることもあり、使用される対象領域も非常に広いこともあって、これといった正解例もあってないようなものというのが実態かと思います。


KPIの立て方の基本その一


とはいえ、KPI設計は難しいから諦めよう、では進歩がないので、基本的な方法や注意点などをいくつか紹介してみたいと思います。


例えば売上の目標管理であれば、以下のような売上を分解した数式やそれに似たものはよく見かけると思います。


売上 = 顧客数 × 単価 × 来店回数


しかし、これは数学の問題ではないので答えがひとつとは限りませんし、きっちり素因数に分解できるわけでもありません。


因数分解のやり方は千差万別です。単一の商品かつ単一の顧客のビジネスであれば別ですが、通常はKPIとして最初に上記のような数式を立ててもうまくいきません。


扱う商品やサービスが複数あれば顧客層も異なりますので、ひとつのKPI(顧客数)で管理できるでしょうか。また顧客層が異なるということはその単価や来店回数もそれごとに変わるものです。


よって顧客層の分解の仕方をどうするかがカギになります。


究極的にはひとりひとり別々に見るといった形になるのでしょう。


売上 = 顧客Aの売上 + 顧客Bの売上 + 顧客Cの売上 。。。


しかし当然このようなKPIでは、顧客の数だけKPIも増えてしまうので到底管理できるものではありません。


ではどうするかというと、顧客を個々に管理するのではなく、セグメントという形でもう少し粒度を荒くして管理します。


よくあるのは購入する商品やサービス、もう少し大きな粒度では事業、といった顧客層別に分けるパターンでしょう。


商圏が限定的なものならばエリア別、BtoBビジネスを行っていて顧客が法人なら業界別に分けるといったケースもよく聞きます。


マーケティング業界では、F1層(女性20~34歳)、F2層(女性35~49歳)といった分け方も昔からよくされているので、こうした分類が使われているところもあるかもしれません。


ちなみに、そもそもKPIは相互に影響し合わないように、漏れや重複のないMECEの形に分けるのが基本なので、顧客層の分け方などもなるべくかぶりが出ないようにする必要があります。


その際、購入する商品別等に分けるよりも、「顧客はドリルを求めているのではなく、穴を求めているのだ」とのえらい人の格言にもあるように、顧客のニーズ別に分けるのが良いKPIが作れそうです。


KPI設計のジレンマ


しかしここで難しいのが、「顧客のニーズを明文化してMECEの形に区分して整理すること」と、「それらを数値として管理するためにデータで集計できるようにすること」です。


ニーズの方はまだなんとか洗い出せても、それをデータできちんと表現できるように定義を明確に決めることができるか、そしてその定義に沿ったデータが収集できるかどうかというと、非常に難しいというのがほとんどではないかと思います。


ECサイトなどでは顧客ニーズの単位でWebページを作ることができるので、そうしたWebページ別での売上を集計するなどやりようがあるかもしれませんが、リアルビジネスではニーズというものはログデータとして取得しづらいのでなかなか難しいでしょうね。


そうなるとどうするかというと、管理しやすいデータをもってKPIとしてしまうということになりがちです。


POSデータがあれば商品単位、商品カテゴリ単位、売場や店舗単位、顧客データがあれば、性年代単位、職業単位、購入額や頻度別といった単位での売上集計は可能なので、KPIもデータ起点で設定してしまおうというパターンです。


最終的には数値データとして入手可能でないとKPIとして管理できなくなるので、このようなデータ起点と顧客(ニーズ)起点の狭間でどこを落としどころとするかで、妥協点を探るというかジレンマを感じることもよくあります。


KPIの立て方の基本その二


KPIの分解を進めていくと、現場で管理可能なレベルに行き着きます。


このとき、現場の権限と裁量と管理体制によって、詳細なレベルのKPIを設定すべきかどうかが決まってきます。


言い換えると、例えば事業部単位での売上予算(=KPI)が設定されているとき、各事業部のマネージャおよびメンバーは自分たちが何を頑張ればその予算が達成できるのか、きちんと共通理解がされているかどうかです。


彼らがきちんと理解しているならば、KPI達成に向けたアクションプランは彼らに任せるというのも手です。


しかしそうでないならば、数字が下がったときにテコ入れをしようとしても、現場はどうして良いのか困ってしまいます。結局は、現場の担当者任せとなってしまい、数字の達成は運否天賦によるものになってしまいます。


その場合は、より現場の行動と売上予算に関連したKPI指標が必要になってきます。


例として、営業部などでは見込顧客の受注確度別の件数を管理しているところが多く、予算達成にはどれだけの顧客を集めるべきか、期末が近づくにつれ時間的な制約が迫る中でどの確度の顧客まで注力すべきかなどは適宜管理されています。


KPIの立て方の基本その三


設定したKPIは基本的には全ての数字をモニタリングしていく必要がありますが、どの数字がコントロール可能かどうかはきちんと切り分けておく必要があります。


例えば親会社等の下請けビジネスを行っている場合、そこからの売上数値が下がったとして、自社側の努力で果たして改善できるものでしょうか。


自社側の努力でなんとかなるものであれば別ですが、結局上流側の事情で売上が左右されるならば、いくら現場が頑張ってもKPIは改善しません。というか、そもそも現場は何を頑張れば良いのかさえわからないでしょう。


そうした切り分けができていないと、経営者側も現場へ追加リソースを投入したり、現場に発破をかけ続けるといった無駄なアクションを行ってしまう恐れもあります。


他にも、取引先が限定されていたり、代理店やパートナービジネスなどの形態で売上が他企業任せになっていたり、政治情勢・為替変動・気候や災害といったものの影響を受けやすいビジネスであったりすると、自社側の努力でなんともしがたい数値が売上に含まれているということはよくあります。


完全になんともできない部分と、一部は自社側でなんとかできる部分など境目があいまいなケースもあるので、きちんと切り分けて管理するのもなかなか難しく、できていないところも多いようです。


KPIの運用を開始する前に、まずはそうした点の整理も必要になるのではないかと思います。



とりあえず思いついたのは以上となります。また何かネタがあれば続きを書くかもしれませんが、本日はここまで。