顧客満足度の測り方

先週は顧客分析が求められる背景を紹介しました。

custle.hatenablog.com


今回は先週の続きで、顧客分析においてよく出てくる顧客満足度について考えてみたいと思います。


顧客満足度とは


顧客満足とは、顧客の期待を超えることとよく言われます。


リッツカールトンや星野リゾートなどの事例は有名で色んなところで見かけますね。


ただ顧客の期待を超えようとして行ったサービス等が、本当に顧客の満足につながったのか、単なるおせっかいに過ぎなかったのかを判断するのは難しいことです。


常に顧客からフィードバックをもらえるとは限りませんし、もし感謝や満足の言葉をもらったとしてもひょっとしたらそれは社交辞令で本心は違ったりするのかもしれません。


さらにその感謝や満足の言葉が顧客の本心からのものだったとしても、収益面では特に効果がなかったのであれば果たしてその取り組みは成功といって良いのかどうかも悩ましいところです。


前回紹介したバランススコアカードで言えば、顧客志向指標を重視するあまり、顧客収益指標が変わらなかった(むしろコストが余計にかかってしまっただけだった)というようなケースも実はたくさんありそうです。


よって様々な事例が本当に成功事例なのかどうか実際のところは収益指標が見えないとわかりません。そのため公開事例に感銘を受けて真似しようとしても失敗してしまう可能性もあります。おそらくそのような失敗事例も世の中に知られることなく陰で数多く埋もれていることでしょう。


できれば真似する前にかけたコストに対してどれだけのリターンが上がるかなどの顧客収益指標をきちんと見積もった上で取り入れるかどうかを考えたいところですね。


とはいえ、顧客収益指標はサービスを提供したそのときのリターンだけでなく将来的なリターンや口コミ等による他の顧客への影響なども考慮が必要かもしれません。そうしたリターンの定義や範囲をどう決めるのか悩ましい上に、実際にやってみないと測れない類のものなので、見積もるのも簡単ではありません。


ただ成功企業では従業員に顧客サービスのためにxxx円まで使ってもよいといった形で基準となる予算内であれば個々の裁量に任せているところもあるようなので、見積もりの難しいリターンよりもコスト管理の方をしっかりすることで、収益指標に大きくマイナスの影響を与えないようにしているといったこともあるのかもしれません。


アンケートによる顧客満足度の計測


顧客満足度、特に顧客志向指標の計測方法で代表的なものは顧客へのアンケート調査です。


商品やサービス等に対する満足度を聞かれたアンケートに答えたことがある人も多いのではないでしょうか?


大変満足した/やや満足した/普通/やや不満だった/不満だった


といったような5段階評価のアンケートで、「大変満足した、あるいはやや満足したと回答した人が80%おり、高い満足度を得られることができました」といった内容のレポートを見たことがある人もいるかもしれません。


ところでみなさんは上記の回答でどれにチェックをつけるか悩んだことはないでしょうか?


特に可もなく不可もなくといった場合だと「やや満足」と「普通」で回答が割れる気がしませんか?


こうしたアンケートではなかなか明確な基準を設けるのは難しいものです。


人によって「やや満足」と「普通」の感覚が異なるかもしれないので、アンケートを集計しても正しく顧客全体の満足度を反映したものになっているとは限りません。


さらに満足したかどうかといった言葉ならまだしも、10点満点で何点でしたか?といったような聞き方だと、それこそ7点の基準と8点の基準が万人で全くそろうということはないでしょう。


選択肢にしても5段階、3段階、10段階とアンケートごとに満足度の聞き方がバラバラだと、複数のアンケートを比較したり時系列的な推移を測ることも難しくなります。


ところでそもそもこうしたアンケートで聞いた顧客の満足度が高いことがその企業にとって良いことなのでしょうか。


上記でも書きましたが、顧客志向が高いことがイコール顧客収益も高いとは限りません。例えば、満足度が高いと回答したからといって、継続して顧客になってくれるかどうかはわかりません。競合製品と比較検討するなどじっくり考えて回答した人もいれば、なんとなく感覚で回答したという人もいるかもしれません。満足度という言葉自体が人によってその意味するところや範囲なども様々です。収益性指標との関連性は不明です。


しかし昔ながらの方法であるということや他にやり方がないということで今もこうした満足度調査を継続しているところは多いと思います。


NPS(ネットプロモータースコア)による顧客満足度の計測


マーケティング界隈では数年前くらいから、NPS(ネットプロモータースコア)という指標に注目が集まってきています。


これは簡単にいうと、顧客に対象の商品やサービス等に満足したかどうかではなく、知り合いに勧められるかどうかを聞いたものになります。


勧められるかどうかを11段階で回答してもらい、強く勧める(9~10点)と回答した人の割合から、あまり勧められない(0~6点)と回答した人の割合を引いた値で算出します。


このNPSは事業の業績や成長率などと相関が高いそうです。つまりNPSを上げることは業績アップにつながり、投資対効果が見込まれるということで上層部やスポンサーの理解を得やすいということでもあります。


バランススコアカードでいう顧客志向指標でもあり顧客収益性指標でもあるという、一つで二つの役割を担う便利な指標ということですね。


ただ事業の売上や収益との相関が果てしてどのようなケースでも当てはまるのだろうかは気になります。また点数のつけ方も定義が統一されていたりある程度はっきりした回答しか使用しない点は客観性が高いものの、やはり個人の感覚による判断は完全に除外されているわけではないのは気になるところです。


それでも現在のネット社会ではSNS等による情報の拡散性の影響は非常に強いのでこうした指標は効果の面で期待は持てそうです。実際の活用事例や効果が色々なところで叫ばれるようになってくると今後広がってくる可能性は十分あるでしょう。


顧客満足度という言葉にとらわれ過ぎない


元々は企業の売上や利益を上げたい、そのためには顧客の視点でいうと、顧客数や顧客単価を増やしたりコストを削減することが重要です。


しかしどうすればそれが実現できるのか?


顧客満足度が高くなれば、コストをかけなくても顧客数や単価も上がるだろう、それに満足度を上げるためのアクションも思いつきやすいということで、顧客満足度を重視する流れになったと思われます。


顧客満足度が高いと、顧客は離反しにくくなります。次回もまた購入してくれる可能性も高いです。新規客や競合客に比べて宣伝や販促コストもそれほどかかりません。


顧客満足度を向上することは間違いではありませんが、重要なのはそのためのアクションが本来の目的である顧客収益指標に結びついているかどうかです。


顧客収益指標ではなく、顧客満足度が目的であると現場に勘違いさせてしまうと、リターンとコストに対する意識が希薄になって収益指標を低下させかねなくなります。


さらに顧客満足度という言葉も具体性に欠いた言葉なので、そのまま現場に伝えても現場側も自らの思い込みで行動してしまい、結果顧客にとって余計なお節介で本来の満足度はむしろ下がったなんてことも起こりかねません。


よって顧客満足度はそのまま指標として扱うのではなく、収益指標に効果があり具体的に定義したものに言い換える必要があります。


とはいってもどうやって定義すれば良いのかも悩ましいですよね。


なかなかこれといった正解があるというわけでもなく、事業やサービス、ビジネス形態などによっても異なってくるでしょう。それにひとつではなく、複数の指標になるかもしれません。


一つのヒントとしては、収益指標の高い顧客と低い顧客、常連客と離脱客などの違いを調べてみるのが良いかと思います。


おそらくは収益指標の高い顧客は満足度も高いであろうと思われます。彼らが何に満足を感じていて一方で収益性の低い顧客は異なるのかを明らかにすると収益性につながる指標が見つかるかもしれません。


ひょっとすると、その商品・サービス・ブランドのとある情報を知っているかどうかとか、見た目がインスタ映えするかどうかなど意外と単純なことだったりするかもしれませんよ?