データ集計者のキャリア

データ活用があまり進んでいない企業や組織では、「とりあえずデータを見るだけ」業務が多量に発生してしまいがちです。


そうした企業ではデータ活用のための適切なKPI設計を行える人も、そのために必要なデータの収集や管理を行う人もほとんどおらず、逆に「とりあえずデータを見たがる人」と「そのためのデータ集計を行う作業者」だけになっているというケースが多いようです。


もし前者の業務ができる人が入社したとしても、それらに取り組む以前にデータを見るだけ業務の対応で忙殺されるなどして嫌気をさして再び転職、結果として定着されずじまいなのではないでしょうか。


別途こうした課題を解決するというニーズはあるのでそうしたビジネスのマーケットはあるのですがそれはさておき、そうした企業にいるとデータアナリストの肩書があってもただ言われたデータを抽出するだけのデータ集計者として終ってしまう可能性が高くなります。


特にデータアナリストと名乗っている人であれば、自分たちの仕事はデータを分析することで、依頼者の代わりにデータを集計するだけの作業者ではないという思いから、そうした仕事を嫌がって避けるか、嫌々ながら取り組んでいるという人が散見されます。


今はまだデータを見るだけ業務もたくさんありますが、それに付加価値が伴わないと今後は縮小されていくかそれにかける費用が削減されていくのも想像に難くないでしょう。そしてそれはデータ集計者の収入にも跳ね返ってくることでしょう。


またそれなりの企業であればデータの仕様やツールなど環境面ではある程度整備されているので、数か月ほどかけてそれらに習熟すれば若手でも早期にデータ集計・抽出の業務において活躍することは可能です。(ある程度センスも必要ですが)


つまり多少経験あるアナリストであっても、データ集計・抽出だけの業務しかしていないと評価も上がりづらくなりますし、同じことができる人が増えてくると他との差別化も難しくなります。いずれ物足りなさやキャリアの先行きに不安を感じてきてもおかしくはありません。


必ずしも皆が皆ステップアップしていけるキャリアが用意されているわけではないのはどんな職業でも同じだと思いますが、データアナリストにおいては特にこうしたデータ集計業務に慣れてきたころがその先のキャリアにおいて結構大きな分水嶺になっている気がします。


そのころにはこの先行き詰まってしまいそうだからと転職やジョブチェンジを考える人も増えてきます。


ただ、安易な転職はあまりおすすめしません。ビッグデータがあってもデータ活用が進んでいない企業は意外とたくさんあるからです。環境を理由に転職しても、転職先がまた同じような環境であれば再び同じようなことで悩みを抱えることになるでしょう。


また現状のデータ集計・抽出業務に物足りなさを感じるようになったアナリストには、次に若手アナリストやエンジニアとの差別化につながるのではないかと「高度な分析」を身に着けることや「分析力の向上」を目指す人も時々います。


ちなみに「高度な分析」とか「分析力」って何?と思われるでしょうが、私もそういう言葉をよく使う人に聞いてみてもどうも要領を得ないことが多いのですが、どうやらメインは機械学習のことを指していたようでした。


「高度な分析」や「分析力の向上」とやらはさておき、何らかの差別化スキルを身に着けること自体は良いことでしょう。機械学習も昨今のAIブームや応用性の高さからニーズは高いですね。ただ、多くはチュートリアルを動かすか、セミナーや書籍・Web等で基本的な内容を学習したりすること止まりで、実業務に活かせるレベルにまで到達できる人はなかなか多くはいないようです。(当然ながら専門家と呼ばれるレベルにまで到達できる人も少数です)


実業務に活かすには業務やサービスの企画・設計・調整方面のスキルも必要になってくるので、アナリスト皆が向いているとは言い難いのでしょう。そうした分野が苦手な人は、既に実業務に機械学習を活用している企業に転職するか、(機械学習)エンジニアにジョブチェンジすることを目指す人もいます。


またスキル面で差別化するといっても、当然ニッチなスキルであれば何でも良いわけではなく、ビジネス的な付加価値につながらないとなかなか周りからは評価されません。(そういう意味でも「高度な分析」とか「分析力の向上」とか定義や理由があいまいなものが必要と思いこんだりするのは危険です)


特にそうした面を強く意識する人は、依頼者の意思決定により役立つデータを提供できるよう、彼らの業務や戦略を理解し、マクロなものからミクロのものまでKPIの設計をこなせるようになることにより注力します。さらに彼らの本来の課題を明らかにし解決方針を提示するなどコンサルのようなことまでする人もいます。しかしこれらも元々のデータハンドリングのスキルとは異なる類のものなので、データハンドリング経験を積めばできるようになるものでもなく、ハードルはやはり低くはないかと思います。


また技術者寄りの志向の方には、データ活用を支えるエンジニア方面にシフトする人もいます。どんな人でも気軽に求めるデータにアクセスできるようにレポート環境を整備したり、各種業務におけるログやデータを効率的に収集・管理できるように業務(あるいはその一部)をアプリケーション化したり、多量のデータを取り扱えるようにハイパフォーマンスなDWH環境を構築したり、複雑なデータ処理をしなくても良いように汎用性のあるデータマートを開発したりしています。


今は多くの企業でデータ活用に取り組んでいるので、こうしたニーズはたくさんありますし、そのためのツールやソフトウェアなども多くのベンダーから新たに開発されるなど技術的な革新も進んでおり、技術志向の人にとっても刺激を受ける機会も多くあることでしょう。


いずれにせよ、データハンドリングの経験をある程度積んだ後にもキャリアアップの道は開けていると思います。


ただハードルはその分高くなっていきますし、新たなスキルや経験を積むことも必要になってくるので簡単ではないでしょう。もちろん割り切ってデータ集計者としてやっていく人もいますし、その道も否定されるべきものではありません。ただ、嫌々ながら消極的にデータ集計業務をこなし続けていくくらいならあまりやりがいも得られないと思うので、少しでもクライアントの満足度を上げるにはどうしたら良いか、集計業務自体をより正確により効率的にするにはどうしたら良いかかなどを考えながら取り組むと道が開けてくる可能性もあるかもしれません。私も道半ばですし、行き詰まり感を感じることが全くないわけではないので引き続き色々模索していこうと思ってます。