データを収集するやり方のひとつにアンケートがあります。
調査会社を通じたモニターや自社の会員等に質問をすることで、行動履歴ではわからない顧客のインサイトなどのデータを集めることが可能です。
ただし、裏付けのあるものではないため、嘘や適当に答えた回答データも混ざってしまうので信頼度はやや下がります。
客観的な設計
アンケートで難しいのは、客観的な設計です。
質問の仕方や選択肢のチョイスによっては、回答をある程度誘導してしまう恐れがあります。
アンケートにはある程度恣意的なデータを集めるために実施されるものもありますが、その類のものでは正に意図的にそうした設計が行われます。
しかし調査目的で行う場合でも、客観的な質問や選択肢を作ることができずに、意図せず偏りを生んでしまうこともよくあります。
例えば以下は回答者が答えに窮する可能性があり、結局「その他」や無難な選択肢に流れてしまいやすくなります。
・ひとつの質問に複数の論点がある
・選択肢に漏れがある
また以下のように回答者に負荷を強いると、適当な回答をされやすくなったり途中離脱されやすくなります。
・質問文が長くてわかりにくい
・選択肢が多い
・選択肢に似たものが複数あり迷う
意図せず回答を誘導してしまう情報を載せてしまうこともあります。
・補足情報などに情報の一側面のみしか入っていない
・補足情報などに意見や見解などが入っている
・選択肢のバランスが悪い(出題者の好ましい選択肢が多いなど)
尺度を問う質問でも選択肢の表現によっては偏ってしまう場合もあります。
例えば「満足したかどうか?」は総合的な印象を問うものですが、「役に立ったか?」とか「ためになったか?」だと何かひとつでもそう感じるものがあれば肯定の回答が得られやすくなります。(テーマ等にもよるので全てのケースで当てはまるわけでもないですが)
他にも選択肢が「満足・やや満足・普通」とした場合と「大変満足・満足・どちらともいえない」とした場合はおそらく同じ偏りにはならないでしょう。
少なくとも別のアンケート結果と比較するのであれば表現は統一する必要がありますし、本来聞きたいことは満足度なのか何なのかは予めきちんと検討した上で選択肢を作りたいものです。
深堀りの設計
アンケートでは普段のデータではわからないデータを集める折角の機会ということで、「なぜそう思うのか」や「なぜそう行動するのか」の理由を調査することをよくやります。
しかし、回答者に聞けば答えが出るだろうと気楽に思われているのか、あまりきちんと仮説を立てて選択肢を用意したり、直接的な質問しかしていないような設計のアンケートも多く、おそらく集計してもその結果を活かすことなく終わるというパターンも多いようです。
例:商品Xを購入しない理由を次からお教え下さい
1.価格が高いから
2.品質が低いから
3.好きなブランドでないから
4.その他( )
上記の質問にて仮に1の回答が最も多く「商品Xの弱みは価格の高さである」ということがわかったとして何に活かせるでしょうか?
まず価格が問題だとしてもアンケート結果から単純に値段を下げられるのか?という問題があります。
さらに、価格を下げることで同時に品質も下げても良いのか、品質を維持して価格を下げるならいくらならば良いのか、など結局悩みは解決されずに次の行動に起こすこともできないのであれば、「元々聞く必要のない質問」なのかもしれません。
そもそも価格はアンケートで聞くまでもなく競合商品と比較すればわかります。もし顧客が商品Xの価格が高いと感じているならば、同価格の競合商品よりも機能や量などの面でコストパフォーマンスが低いと感じているのか、付加価値(低価格の競合商品にない機能等)があまり評価されていないかどちらかでしょう。
質問も単純に「価格が高いかどうか」を問うのではなく例えば各機能の要不要などを聞けば、不要な機能を外してその分価格を下げるとか機能別に商品を分けることで競争力を上げることも可能かもしれません。
他の選択肢の「品質」や「ブランド」もただそれだけを購入しない理由として回答されても如何ともしがたいのは最初から自明なので、そのような質問をしても無駄に終わる可能性が高いでしょう。
ひとつの質問で大雑把な理由を聞くのではなく、知りたいこと/知って意味のあることをあらかじめきちんと整理してひとつひとつ問うのが良いかと思います。
また回答者の「購入しない理由」もひとつとは限りませんし、複数の選択肢を選べるようにしてもそれぞれ重要度が異なる可能性もあります。
さらに選択肢が多くなると上記でも述べたように回答者の読解の負荷が高くなり、回答の質が下がるかもしれません。(個人的には尺度以外の選択肢は「はい/いいえ/(どちらでもない)」の二択ないしは三択がベストかと思ってます)
そういった意味でも「理由」を問う質問のように選択肢が多くなりそうな質問は、分解や分岐によって複数の質問に分けて少ない選択肢になるように設計したほうがよい場合もあります。
例えば先ほどの商品Xの非購入理由の調査であれば、
・購入したことがあるか/ないか
・機能Aは必要と思うか/そうでないか(その他機能も同様の質問を行う)
・機能Aの品質は同価格帯の競合商品と比べて高いと思うか/低いと思うか
・商品Xのネーミングは購入に影響するか/しないか/わからないか
・商品Xのデザインは購入に影響するか/しないか/わからないか
・商品XのCMは購入に影響するか/しないか/わからない(見てない)か
・購入に影響すると回答したものの中でも最も影響の高いものは何か
・今後購入したいと思うか/思わないか/わからないか
などなど、とりあえずいくつか思いついたものをざっと挙げてみました。
他にも商品Xの認知状況の確認や購入経験者ならではの不満なども聞けると、販促手法や商品のユーザビリティにおける課題が見つかるかもしれませんね。
ちなみにインタビューなどでもいきなり核心の質問やオープンクエスチョン(どう思うか?のようにYes/Noで簡単に答えられない質問)をするということはあまりなく、最初にアイスブレイクを入れたり、簡単な質問から始めて段階的に深堀りした質問を重ねていくほうが主流かと思います。
アンケートの回答者もそもそも質問内容(考えや行動の理由)を常日頃から考えていて、いきなり聞かれてもパッと答えられる状態ということはあまりないので、ある程度考えを整理するためのステップ等があった方が回答の質も上がるのではないでしょうか。