弁当の前で立ち止まって何を思ふ

弁当売り場の客の行動分析


埼玉や群馬に展開しているスーパーのベルクではAIカメラを使って顧客の行動分析を実施されています。


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上記記事では、我孫子店で行われた実証実験が紹介されていました。

我孫子店は「お弁当エリア」に2台のカメラを設置し、そのエリアを4分割して計測することにした。「エリアを通過する総人数」と「3秒以上立ち止まった人(滞留者)」この2つをカウントすることによって、4つのエリアの滞留率(通過人数÷滞留人数)を計測

※滞留率はおそらく滞留人数÷通過人数の方かと思われる


Aは一番人気の商品である。例えば、カツ重やから揚げ弁当など。

CとDについては、Dのほうに売れ筋商品を置いている。

多くの人は左から流れてくる。人気商品が並んでいるAの弁当を見て、次にDにといった動きがみられるので、CよりもDに、より売れている商品を配置しているのだ。

最後のBについては、店内でつくっていないお弁当を扱っている。「鮮度」という視点でみると、どうしても店内で調理したものよりも落ちてしまうので、通過人数が少ない傾向があるBに並べているのだ。

滞留率をみると、Bが最も高い数字であることが分かってきたのだ。A、C、Dの滞留率はほぼ同じだったのに対して、Bは5%ほど高かった


AIカメラの活用の可能性に関しては他にも色々述べられているので、上記はあくまで一例の紹介になります。


上記以外ですと、お弁当コーナーに限らず、お店の入口にAIカメラを設置して入口の通過人数を計測してレジの必要人員を予測したり、昼と夜の傾向の違いお店の各所で分析したりと、現場の方は様々なデータを元に色々と仮説をあれこれ考えながら検証されている、とのことです。


さて、上記のお弁当コーナーの滞留率の話に戻ります。


上記のデータの活用方法に関しては詳細には書かれていませんでしたが、みなさんならいかがお考えでしょうか?


Bの滞留率が一番高かったと明らかになった上で、どのようなアクションを考えられるでしょうか?


滞留率が高い原因は何か?


残念ながら個人的にはこれだけのデータではなんともしようがないかなと思いました。


まずBの滞留率が高かった原因がわかりません。


1.Bに置かれていた弁当の種類が原因なのか?


2.Bに飲料や総菜等ではなく弁当が置かれていたからなのか?


3.顧客導線やエリア上の問題なのか?


対照実験のデータがないとどれが原因なのかわからないので、正しい対策もとれないのではないかと思います。


必要な対照実験についていくつか検討してみましょう。


もしBに別の弁当を置いた場合に滞留率が他のエリアとほぼ同じであれば、弁当の種類が原因という可能性が高そうです。

Bに置くもの Bの滞留率
最初の弁当 他エリアより高い
別のエリアの弁当 他エリアと同じ


一方Bに別の弁当を置いた場合に滞留率が同様に他のエリアより高いままだったなら、弁当の種類以外が原因だと思われます。

Bに置くもの Bの滞留率
最初の弁当 他エリアより高い
別のエリアの弁当 他エリアより高い


もし弁当の種類が原因でなかった場合、さらに弁当以外のものを置いてどうなるかを実験します。


もしBの滞留率が他のエリアと変わらないのであれば、弁当が原因と思われます。

Bに置くもの Bの滞留率
最初の弁当 他エリアより高い
別のエリアの弁当 他エリアより高い
弁当以外のもの 他エリアと同じ


一方Bの滞留率が他のエリアより高くなったとしたら、何を置くか?とは無関係に別の原因で滞留率が高くなっていると考えられます。

Bに置くもの Bの滞留率
最初の弁当 他エリアより高い
別のエリアの弁当 他エリアより高い
弁当以外のもの 他エリアより高い


こんな感じで、原因の切り分けを進めていかないと誤った原因を正しいと思い込んでしまう可能性があります。


ちなみに多くの客の導線は A ⇒ D ⇒ C ⇒ レジ(Cの先にレジがある)となっているようなので、おそらくBは比較的周りに他の客が少なく、落ち着いて品物を選べる位置なのではないかと想像します。


ということで滞留率が高くなる原因は、私の予想ではおそらく客の導線ではないだろうかと思います。(あくまで仮説です)


滞留率が高いと何が良いのか?


こんな感じで分析を進めて、滞留率が高い原因がわかったとしましょう。


とすると次に課題となるのは「滞留率が高いと何が良いのか?(あるいは良くないのか?)」です。


つまり、滞留率は上げるべきものなのか、そうでないのか、どう活用すべきなのか?が重要です。


KPIはおそらく売上でしょうから、滞留率が高いとその前にあった商品の売上はどうなるのか?をきちんと調べる必要がありそうです。


この辺りは実際にデータを見てみないとなんとも言えないのですが、あくまで個人的な予想として考えてみます。


(もちろん調べる際には滞留率以外の要素が影響しないような実験設計が必要です)


おそらく滞留率があまりに低いと、その商品の前をほぼ素通りされているということなので、あまり売れ行きは良くないのではないでしょうか。


一方滞留率が高いと、その商品の前で足を止める客が多いということなので、購買されやすくなり売上も上がると思われます。


ただし、滞留率が高くてもそこに長く滞留する客が多いと、他の客がその場に行きづらくなって立ち入り客数そのものが少なくなってしまう可能性もあるため、売上に逆効果な場合も考えられます。


よって滞留率と立ち入り客数の適切なバランスを見極めることが売上の最大化のためにはポイントになってくるのかもしれません。


とこんな感じで、滞留率がどうなれば良いのかがわかれば、最初に判明した滞留率の変動原因を元に滞留率を制御するためにどのようなアクションをとれば良いのかが見えてきます。


最後に


これまでこうした滞留率のようなデータは取得するのが非常に難しかった(手間がかかった)のが、今では手軽に取得できるようになってきています。


しかし、取得できるデータが増えれば増えるほど新たな分析/詳細な分析ができる一方で、疑似相関するデータも増え、因果関係を取り違えやすくなる可能性も高くなります。


そういう場合にこそ、適切な分析設計ができるスキルが重要になってきます。


データの民主化が進んだり、シチズンデータサイエンティストが増えてきても、こういったスキルの醸成はおそらくすぐには追いついてこないと思うので、あまり彼らに任せきりにせずに気にかけたいところですね。