KPI設計はデータ活用の基本でもある

最近データ活用について改めて色々考えているのですが、データ活用がうまく進められないのは、「そもそも適切なKPI設計ができていない」というのが大きな原因ではないかと思うようになりました。


なぜそう思うようになったのかというと、あちこちでデータ活用の気運が高まるようになり、データに関心のある人が増えていますが、なぜかその多くは、そもそもKPIと関係のないデータを見たがるのです。


というと少々語弊があるかもしれませんが、もう少し言い方を変えると「おそらくKGIと多少関係しているのかもしれないデータ」くらいの意識はあるのかもしれません。


ただ本当にKGIと関係するのか裏付けを取っているかというと、そういうことはなく、なんとなくそうかもしれないといったレベルの未検証の仮説データであることがほとんどではなかろうか、と思います。


KPIはKGIを因数分解したものであれば、当然KGIの一部でもあるので、「KPIを改善する⇒KGIを改善する」につながります。


しかし、うまく因数分解しづらいものもあり、そのような場合はKSF(重要成功要因)を明らかにし、KSFにつながる指標をKPIとされると思います。


例えば、顧客数 = 商談数 × 成約率 としたときの、


「成約率」だと、成約率を上げるためのKSFを検討してその指標をKPIにするといった感じです。


この場合のKSFは、例えば「営業担当の提案力の向上」や「顧客とのリレーションの強化」などでしょうか。


商品の質の影響が強いならば、「商品の改善」などもあるかもしれません。


指標としては、なかなか難しいですが行動目標に近いものになってくることも多いかと思います。


提案力の向上だと、提案ツールの充実(セールスシート作成、効果的な提案資料の型化、事例の整理・共有)や、営業研修やトレーニング受講率など。


顧客リレーション強化だと、ステップ別進捗率のようなもの(キーマンと関係構築できているか、顧客の予算感は確認できているかなど)で測ったり。


商品改善だと、その改善を実装した新バージョンをxx月までにリリース、など。


ただし、こういったケースではKSFやそれを元にしたKPIらをなんとなく「多分こうだろう」と根拠なく設定していたり、周りの人たちもそれを特に疑うことなく暗黙の了解になってしまっているということも多いのではないでしょうか。


・提案力を向上すれば本当に成約率が上がるのか?


・提案ツールを充実させれば本当に提案力が向上したと言えるのか?


もし実はそうでなかったとしたらどうでしょうか。


せっかく現場が頑張ってその指標を達成したとしても、KGIや上位のKPIは改善されず、現場も経営もみんなハッピーにはなれないということになりかねません。


意外とこうしたケースは実際のところそれなりに起こっているのではないでしょうか。


特に、KPI設計が会社全体や本部といった大上段のレベルから一気に個人レベルまで飛んでしまっているケースなどは、KPIが正しく落とし込まれていない可能性が非常に高くなります。


この場合、現場のいち社員が「それぞれ自ら考えて」KPI設計(目標設定)することになります。


彼らが設計したKPIが本当にKGIや上位のKPIを改善し得るものなのかどうか、それは現場社員各自に依存されます。


上司のレビューくらいは入るでしょうが、本当にKPIとして適切なものかどうか上位KPIとの関連性を検証するといったことまではあまりされないでしょう。


どうしても現場目線が中心なので、「現状業務はこうした方が良さそう」「スキルアップのためには良さそう」「やらないよりはやった方が良さそう」といった観点でKPI設定がなされていそうです。


そうなると彼らのKPI(目標達成)のためのアクションは、KSFに沿わないもの(上位KPIと関連性のないもの)になる可能性も高くなります。


この状態で上から「もっとデータ活用しろ!」と言われたり、彼ら自身そうした意識が強くなると、自らのKPIに関するデータを色々調査したりしようとして上位KPIとは関係のないデータまでも多く求めるようになったりするのではないでしょうか。


ちなみにこの状態は、現場社員に限ったことではなく、上司レベル、下手すると経営陣レベルでもあり得る話だったりします。下位のKPIが不明瞭な状態で、こうしたデータがあれば上位のKPI改善につながるだろうとの思い込みで、こうしたデータを分析しろと部下に中途半端な指示を出すというパターンです。


こうしたことを避けるためには、ある程度の粒度まできちんと分解されたKPI設計(かつ各段階のKPIがきちんと関連している状態)を最初に行う必要があるのではないかと思われます。


なおマーケティング領域では、この辺は顧客の購買決定プロセスなどのようにある程度構造化の解明が進んでいたりするので、KPIの途中がすっ飛ばされていたり、KSFと関連性のないKPIが使われるようなことは少ないとは思います。


とはいえ、マーケティング領域でも全く見かけないわけではないですが…

例えば、見込み顧客を集める目的でセミナーを実施した際に、確度の高い見込み顧客をどれだけ集められたかではなく、セミナー受講者のアンケート結果「満足した」がxx%以上でした!を評価指標にしているケースなどです。



ちなみに、正しいKSFはどのように見極めれば良いのでしょうか。


それにはおそらくドメイン知識やこれまでの経験などが手がかりになるでしょう。


ただし、それらの知見を元に最もらしいKSF候補を考えてみても、実はKSFではなかったとか、あるいはKSFは正しくてもそれを測るKPIがおかしかったという可能性もゼロではありません。


そのため実際に検証してみてきちんと確認することを推奨します。

1.KSF候補のアクション効果を測る適切な指標(KPI候補)を設計し、


2.実際にアクションを実行し、


3.適切な効果検証を行い、KGIもしくは上位のKPIとの相関が見られれば、


4.KSFおよび適切なKPIの可能性が高くなります。


こうして正しいKSFを踏まえたKPIが設計できれば、後はそのためのアクションを行っていくだけです。


とはいえ、アクションが十分に実行できていなかったり、様々な外部影響があったりすることもあるので、KPIはしっかりモニタリングしながら、場合によってはしかるべき対策や改善をとれるようにすることも必要でしょう。


以上より、データ活用の基本としては、主に次の3つが考えられます。


・KSFが正しいKSFであるかどうかの見極め(KSF候補の効果検証)


・KPIの定常的なモニタリング


・KPIに課題があったときの分析(基本的にKPI設計がしっかりできていれば原因特定しやすいが、外部要因の場合は切り分け含め必要と思われる)


つまりは、きちんとしたKPI設計とその運用を行うためにデータを活用するということです。


これらができていないということは、何を拠り所にしてよいのかわからない状態なので「とりあえず色んなデータを見てから考えてみる」「色んな分析方法を実行してみて何かがわかるのを期待する」となりがちなのかもしれません。


あるいは拠り所が間違っている状態だと、各人それぞれの考えでデータを集めたり行動することになるので、分析官から見ると「なぜそのデータが必要なのかわからない」「本当に必要なデータはそれでよいのか」となるのかもしれません。



「データ活用」は「データ分析」と同じもののように考えられがちです。


そしてデータ分析という言葉は、データ「を」分析すると一般的には思われているようです。


そのため、まずデータを見てみるとかデータを起点に考えようと発想する人が多いのではないでしょうか。


しかし、本来データ分析はあくまで手段であって目的ではないので、「データ分析」という言葉は、データ「を」分析することではなく、データ「で」分析することと捉える方が適切ではないかと思います。


売上減少の原因をデータ「で」明らかにする。


AかBかの意思決定をデータ「で」判断する。


いきなりデータを見ようとするのではなく、まずはKPI設計をきちんと行い、本当のKSFを考えてみるところから始めるのが良いのではないかと思います。


そうすると「何を分析すべきなのか」や「データ活用そのものの効果」などもより具体的に見えてきて「データ活用の意義」や「データの価値」が実感できるようになる気がします。