戦略と戦術
まず、戦略と戦術について説明します。
戦略・・・目標達成のためのおおまかな方針
戦術・・・具体的な方法やアクションプラン
例えば、あなたが田舎の高校生だとして、将来都会の大企業で働きたいという目標を持っていたとします。
そこで例えば以下のような戦略を立てたとします。
①そうした大企業に就職する人の多いA大学を目指す
②そうした大企業で求められる専門知識が学べるB大学を目指す
仮に①を選んだ場合、次に具体的にA大学に入学するための方法が戦術になってきます。
A大学に強い予備校に通う、A大学の受験生に評判の問題集を解く、などなど。
戦略と戦術は基本的にはセットです。
戦略がないと、間違った戦術を実行して目標達成が遠のいてしまう恐れがあります。
戦術がないと、具体的に何をして良いかわからないままでこれまた目標は達成できません。
しかし、ビジネスの場では戦略と戦術がセットにされずに切り離されてしまっているケースもよく聞きます。
経営層やコンサルのような人たちが戦略を考えて、戦術とその実行は現場の人間の担当である、みたいに役割分担してしまうような感じです。
うまく両者が連携できていれば良いのですが、そうでないと戦略が机上の空論になってしまう可能性が高くなります。
さっきの例でいうと、親が子供に都会の大企業で働くには「A大学を目指すのが良い」という戦略を授けたとします。
A大学の偏差値は70
子供の偏差値は50だったとすると、
A大学に入学するためには子供はどうすれば良いでしょうか。
子供が自ら戦術を考えて実行したとしても、A大学に入学するにはかなり厳しいと思われませんか。
ビジネスの場でも、似たようなケースはよく見かけないでしょうか。
あるセグメントの市場に注力するというマーケティング戦略を立てた
⇒しかしそのセグメントでシェアをとるにはどうすれば良いのだろうか
エンジニアを増やし、システムを内製化して柔軟な開発体制に変える戦略をとろう
⇒しかし、どんなエンジニアをどう募集すれば必要数採用できて、システムが内製化できるのだろうか
自社サービスの顧客を増やすために、まずはハードルの低い無料体験の見込み客をこれまでの2倍に増やそう
⇒しかし、これまで頑張っても見込み客は微増しかしていないのにどうすればを2倍に増やせるのだろうか
選択した戦略に沿って戦術を考え実行して結果を出せる人材が「たまたま」現場にいれば、目標達成ができるかもしれません。
もし「たまたま」子供の偏差値が70以上あったならば、よほどおかしな戦術をとらない限りはA大学に合格できる可能性は高いでしょう。
しかし、子供の偏差値がもし50程度しかなかったならば、A大学に強い予備校に通うなどしても合格の可能性は低いかもしれません。
結果的に目標達成できなければ、親の戦略「A大学を目指せ」は机上の空論に過ぎなかったと評されても仕方ないでしょう。
では机上の空論にならない戦略を立てるにはどうすれば良いのか
戦略を立てるときに「戦略だけでなく戦術まで踏まえて考えることができるか」というのはひとつヒントになるのではないかと思います。
目標達成のためには、戦略と戦術のどちらが重要なのか、ではなくどちらも重要です。
戦略と戦術がちぐはぐになってしまうのが一番宜しくないのではないかと思います。
子供が偏差値50であったとしても、A大学がスポーツ推薦を行っていて子供がそのスポーツが非常に得意であることを知っていれば、A大学を目指す戦略も実を結ぶかもしれません。
あるいは、偏差値50の子供を何人もA大学に合格させた家庭教師に伝手があるならば、A大学の入学も現実的になるかもしれません。
机上の空論にならない「良い戦略」を考えられる人は良質な戦術眼も持っているのではないでしょうか。
またもうひとつ戦略の立て方で注意したいポイントがあります。
もし戦術眼のない人が戦略を立てると、無謀な戦略を選んでしまい、どんな戦術をとってもどうしようもない状態になることもあります。
もちろん一発逆転できる戦術もなきにしもあらずですが、そうしたものは通常成功確率が非常に低かったり、ハイリスクハイリターンで逆に目標達成からはかなり遠のいた結果で終わる可能性が高くなります。
そうした戦略をとらざるを得ない場面もあるかと思いますが、常にそうした戦略を選んで結果として目標達成率が低くなった戦略家は信用を失うでしょう。
さきほどの例でいうと、都会の大企業に入りたいという目標に対して、その企業に入社する人の多いA大学を目指すという戦略を選びました。
一方、もうひとつ戦略を用意していたのを覚えておられるでしょうか。
②そうした大企業で求められる専門知識が学べるB大学を目指す
仮に、A大学の卒業生の大企業就職率が5割で、B大学の卒業生の大企業就職率が3割だったとします。
すると、目標達成のためにはA大学を目指す方の戦略を選びたいところですよね。
しかし、A大学の偏差値が70、B大学の偏差値が55、学生の現在偏差値が50だったとするとどうでしょうか
もしそうした学生に毎回A大学を目指すべきという教師がいたら信用されるでしょうか。
もし子供がA大学の受験に失敗して何年も浪人していたら、親は別の道を考えるよう助言したりしないでしょうか。
戦略を考える場合はなるべく複数用意すること
その上で現状や前提条件をきちんと把握した上でどの戦略を選択すべきかを考える、ということも重要になるでしょう。
戦略と戦術とデータ分析
ようやく本題です。
「戦略と戦術」はKPI設計とも密接に関係しています。
目標(KGI)を達成するために、どのような戦略(KPI)を立てれば良いか
どのような戦術を実行すればKPIは改善するか
KPIを策定する場面では、よく起こる問題があります。
それは抽象的で、具体的に数字化して計測ができない戦略が立てられてしまうということです。
冒頭で戦略とは目標達成のためのおおまかな方針と述べましたが、つまりは方針の範囲が広すぎて方針になっていない戦略です。
そのためKPIは、とりあえず見ておいた方が良さそうな数字を寄せ集めるくらいしかできず、結果的に目標達成とは関係のない指標ばかりになってしまいがちです。
例えば、「顧客のロイヤル化」という戦略が立てられたとして、どの指標がどうなればロイヤル化したと言えるのか判断できず、とりあえず顧客に関する取得できそうなデータをあれこれ集めてKPIにしてしまおうといった動きです。
実際に出てきたデータを見てから考えるとか、実際のデータを見れば何か思いつくかもしれない、なんて言われることもよくあります。
KPIが改善できているかチェックするのではなく、色んな数字を見てKPIを考える、という正に目的と手段が入れ替わってしまった悪例です。
まあ大体のところ、実際のデータを見ても結局はなんともいえずに無駄に終わる、というのは残念ながらよくある話です。
この問題が発生すると、戦略立案(KPI設計)が意味のないものになり、目標達成は結局現場次第、運否天賦になりがちです。
もし「顧客のロイヤル化」という戦略がもう少し具体的に決められていたならば、KPIも適切なものを設定しやすくなるでしょう。
目標が売上増加だとした場合、売上は「顧客数×単価×頻度」で決まります。
顧客のロイヤル化=単価の向上 だとすると、KPIとして平均顧客単価などは計測できそうですね。
ただ、戦略と戦術の項で述べたように、単価の向上は果たして実現可能なのか?、どうすれば良いのか?という戦術面での課題がハードルになるかもしれません。
なので、単価向上の方法に目処があるのかどうか、現状のリソースや環境といった前提条件を踏まえた上で、戦術面の検討も同時に必要になってくるでしょう。
さらに言えば、他の戦略(例えば頻度向上)の選択肢はどうなのか、といったことも検討しておいた方が良さそうです。
といった感じで、良い戦略を考えられるようになれれば、KPI設計もうまくいくようになるのではないかと思われます。
適切なKPIが決まってくれば、データ分析もしやすくなります。
KPIの浮き沈みの原因を調べたり、KPI改善のための施策の効果を検証したり、より良い戦略や見落としている戦略がないか調査を行ったりと、意味のあるデータ分析がしやすくなります。
データ分析の仕事は、結果的にやる必要のなかった(やってもやらなくても同じだった)ことばかり、という体験をしている方も多いようですが、そうしたものを少しでもなくせるヒントになればいいなと思います。