データ分析の教材でよく紹介されているデータ分析手法を実行しても、結果にがっかりされた話

先日たまたま以下の記事を目にしました。


数億円かけたデータ分析でわかったのは、アホでも知ってる常識だった! | DX沼からの脱出大作戦 | ダイヤモンド・オンライン


なかなかセンセーショナルなタイトルです。


以下はタイトルに関連する箇所の抜粋です。

かつて某大手食品メーカーが数億円の費用を掛けて、コンビニにおける自社製品の売上を分析しようとしたことがありました。その結果、いったい何がわかったでしょうか。

なんと、「ペットボトルのお茶とおにぎりは、いっしょに買われることが多い」とわかったそうです。

(略)

それにしても「ペットボトルのお茶とおにぎりがいっしょに売れている」ことがわかったところで、施策の取りようがありません。数億円掛けて、「でしょうね」としか言いようのない結果を得た担当者の嘆きはいかばかりだったでしょうか。


この件はその後結局どうなったのかは書かれてないので不明ですが、データ分析の考察としてなかなか良さそうな題材なので、色々と勝手な妄想で考えをめぐらせてみたいと思います。


確かにペットボトルのお茶とおにぎりは一緒に買われることが多い、ということはデータを見ずとも想像できそうですね。


おそらくバスケット分析(併買分析)を実施された結果かと思いますが、そもそもなぜこういった分析をしようと考えられたのでしょうか。


「おむつとビール」の事例では、実際に二つの商品を隣に置いて販売することで売上が伸びた!、かどうかは都市伝説とのことですが、その事例のように近くに置くことで相乗効果のありそうな商品の組み合わせを見つけ、販売促進につなげたかったのでしょうか?


であれば、データで実証されたわけでもあるので、実際にペットボトルのお茶とおにぎりを隣に置くなどして販売促進施策が実施されたのでしょうかね。


もしそれで結果が出ていたのであれば、ひょっとすると数億円のコスト以上の効果も出ていたかもしれません。


ちなみに「お茶を買うついでにおにぎりを買う」というよりは「おにぎりを買うついでにお茶を買う」方が多いのではないかと思いますので、お茶の販売が促進されるものとして考えてみましょう。


2022年の緑茶飲料のメーカー別シェア(見通し)でみると、伊藤園がトップで35%とのことです。


その他のメーカーは、22%、21%、8%。。。



【伊藤園/解説編】世界一のティーカンパニーを目指せ! | 日興フロッギー


そして、2023年の緑茶市場は約4500億円とのことです。


緑茶飲料市場、2023年販売金額が過去最高を記録 牽引役の伊藤園はシェアアップ その要因は?(食品新聞) - Yahoo!ニュース


今回の記事のメーカーがどこかは不明ですが、もし上位3位に入るところであれば、シェア2割以上なので、売上は900億円以上になりそうですね。


すごく乱暴ですが、このうちコンビニで売られているものが1割とすると90億円


もし販売促進効果が数%ほどでもあれば、数億円の売上増が見込めそうです。


利益はもっと少ないでしょうが、上記は一年間の数字なので、長い目でみれば分析のコストをPAYできるかもしれないですね。


なお、あくまで販売促進効果があったという前提で見積もってみましたが、効果がない可能性も当然あります。


もしその場合仮説が間違っていたということで、それはそれで知見になるのですが、クライアントはなかなか納得されないでしょう。


なので、他にどういったことにつなげられるかも考えてみましょう。


仮にお茶の販売促進という目的だとすると、例えば以下のような分析ができるかもしれません。

  • 通常のシェアと、おにぎりと一緒に買われるときのシェアの比較


おにぎりとお茶が一緒に買われやすいとしても、お茶飲料ごとに差があるかもしれません。


もし当該メーカーの商品が他社商品よりもおにぎりと一緒に買われにくいことがわかったとすると、次の手が考えられます。

  • 現行商品はおにぎりが買われる場面で他社商品より選ばれにくいという弱点があるので、その改善・補強を行う
  • おにぎり以外に他に相性が良い組み合わせがある可能性が高いので、そちらでの販売促進を狙い、より強みを伸ばす


基本的に取り得る戦略としては、弱点を補強するか、強みを伸ばす方向のいずれかになるかと思いますので、弱い部分と強い部分をどのように明らかにするか、が分析のポイントとなってくるかと思います。

  • おにぎりと一緒に買われる確率がどんな条件によって変動するかの分析


そこで、上記のような調査を行い、弱い部分と強い部分を明らかにしてみるというやり方もあるかと思います。


条件は色々考えられますが、例えば天気・季節・気温・店舗立地・地域・おにぎりの具・おにぎりのサイズ・おにぎりの価格帯・お茶の温度(HOT/COLD)・レギュラー商品/限定商品。。。などなど


(前半は特におにぎりの併買時に限らずとも良いですが)


もしID-POSがあるなら、顧客のリピート状況による違いを分析してみるのもいいかもしれませんね。


とはいえ、あれこれとデータを見るだけで終わったり、その後のアクションにつなげられないデータを見ても意味がありません。


あらかじめ検証すべき仮説や取り得ることができそうなアクション(弱い部分をどのように補強するか、あるいは強い部分をどのように伸ばせるか)を考えて、データの切り口の検討や分析設計を行うのが良いかと思います。


取り得るアクションは棚割り、流通量調整、商品開発、プロモーション、販売チャネル改善、、、などなど色々あるかと思います。


あと、おにぎりの需要を分析し、それに合わせて施策の優先度を調整するというのもありかもしれませんね。


例えば猛暑だと食欲もなくなり、おにぎりの需要も減りそうな気がしますが、


猛暑のこの夏、コンビニで売れる意外な商品(THE PAGE) - Yahoo!ニュース


梅干しのおにぎりの売上が3割増するなど、意外とそうでもないケースもあるようです。


さらに、これらの分析から次の手を打てそうな可能性が見えてきたら、実際にテストを行い、効果検証をやってみると良いかと思います。


この辺りまでやってみて、ようやくデータ分析の評価もできるようになってくるのではないでしょうか。


通常、クライアントが分析者に期待していることは、専門的な分析手法を実行してもらいたいとか、様々なデータや分析結果から何かを読み解いてほしいといったことではありません。


彼らは、自分たちが次にどうすべきかをデータを元にアドバイスして欲しいと感じているのではないかと思います。


なので、彼らが取り得るアクション、現状の課題、調査すべき事項、新たな取り組み候補などをいったんテーブルの上に広げて、それらをどのように扱っていくべきか、データを使ってシナリオやストーリーを組み立てクライアントとすり合わせを行っていくと、期待外れという結果にはなりにくいのではないでしょうか。


それにしても、世の中にはそうしたすり合わせもせず具体的な目標もないまま、結構な予算のデータ分析プロジェクトやDXプロジェクトが始まってしまうことが多いような気がしますが、なぜなのでしょうね?