問題発見のスキル

ハーバードビジネスレビューの記事で紹介されていたとある事例を元に、「問題発見のスキル」について検討してみましょう。


データサイエンティストが磨くべき4つのスキル 幅広い役割に対応するために | データ経営|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

実例を見てみよう。ある中級ホテルチェーンのゲストリレーションズ(コンシェルジュ)責任者は、チェックイン手続きの評価が低いことで経営上層部から厳しく批判されていた。

アンケートによると宿泊客は、チェックインの対応がお粗末で時間がかかりすぎ、望み通りの結果、つまりシームレスで快適な体験が提供されなかったと感じていた。

また、チェックインを低く評価した人は、ホテルへのリピート率が低いことも経営陣は発見した。


某ホテルで、顧客アンケートよりチェックイン手続きの評価が低いことが問題視されたそうです。

ゲストリレーションズ部門はチェックインの問題の根本を明らかにすべく、データ分析チームに接触した。

宿泊客の人口統計的属性、希望する客室タイプ、チェックインした場所がフロントか、セルフチェックイン端末か、スマートフォンか、一日のどの時間か、一年のどの時期か、ロイヤルティプログラムの加入者か否か──これらを調べた後でも、データチームは根本原因を突き止められなかった。


チェックイン問題の根本をデータ分析チームが色々と調査しても原因は突き止められなかったようです。

すると一人の従業員が、継続的に回収されている宿泊客アンケートを調べることを提案した。

自然言語テキスト分析を何度か行うと、あるテーマが見えてきた。

それは、ホテルのインフラが最適ではないということだ。

Wi-Fiがつながりにくい、ルームキーが時折機能しない、家具が壊れている、到着時に部屋がきれいではない、といった問題に宿泊客は遭遇する可能性があった。

これらの問題はチェックインと直接関係はなかったが、宿泊客はチェックイン手続きを記憶に残していたため、問題をチェックインに結びつけたのである。

結果的に、問題はチェックイン手続きではなく、ホテルの管理状態であった。


さらなる調査にて、顧客はチェックイン手続きに不満があったわけではなく、実はホテルの管理状態に不満があり、それをチェックインに結び付けていたことが判明しました。



さて、実際のアンケートは紹介されていないので、以下はあくまで想像です。


そもそもアンケートでチェックイン手続きの評価「だけ」を聞くというのは考えにくいです。


おそらく他の項目(ホテルの管理状態に関するもの)もあったのではないでしょうか。


しかし、実際のアンケート結果はチェックイン手続きに低評価が集中していた。


本当の不満点はホテルの管理状態にあったにも関わらず。


顧客はなぜそれらではなく、チェックイン手続きを問題視したのでしょうか?


管理の問題をもう少し詳しく見てみましょう。

Wi-Fiがつながりにくい、ルームキーが時折機能しない、家具が壊れている、到着時に部屋がきれいではない、といった問題に宿泊客は遭遇する可能性があった。


顧客はこれらの問題をチェックインに紐づけて評価したのではないかとのことです。


よくみると、どれも問題は「部屋による」もののような気がします。


とすると、チェックイン時に対応できるようにも思えないでしょうか。


つまり、Wi-Fiがつながりやすく、ルームキーがちゃんと機能し、家具の壊れていない、部屋がちゃんと掃除されている部屋をチェックイン時にあてがってくれれば、こうした不満は生じなかったのではないでしょうか?


アンケート設計をもう少ししっかりしていれば、問題発見は早かったかもしれませんね。


ちなみに、この事例において根本の問題は何でしょうか?


普通に考えると顧客満足度の低下だと思われます。


ホテルへのリピート率も調査されていたようなので、こちらも関連する問題と見ても良いかと思います。


おそらく経験のあるデータアナリストであれば、最初に書かれていた「チェックインを低く評価した人は、ホテルへのリピート率が低いことも経営陣は発見した」の部分は果たして本当だろうか?と疑うだろうと思います。


チェックインを低く評価した顧客「だけ」がリピート率が低いのだろうか?


彼らは因果関係には敏感なので、チェックインの評価とリピート率に因果関係があるのだろうか?とまず気にするでしょう。


そのため、ホテルのリピート率が低い顧客はどのような顧客であるか?といった調査から始めるのではないでしょうか。


自分ならまずリピート率の高い顧客と低い顧客のギャップ分析を行ったりすると思います。


そうすると「チェックイン手続きの評価が低い顧客」に調査範囲を限定することなく、リピート率低下の本来の原因である「部屋の違い」についても気づきやすかったのではないかと思います。


目先の課題にすぐ飛びつかず、KGI/KPI/KSFをまずきちんと明らかにしてから本来の問題を考えると、視野が狭まることなく、あまり回り道しなくてすむのではないかと思います。