質問力の磨き方

社会人に必要なスキルのひとつとして、「質問力」というものが話題にされることがあります。


これを磨くとコミュニケーションを円滑に進められるようになるそうです。


結果的にそうした側面もあるかと思いますが、ひとまず質問力とは「求める回答を得られる確率を上げるスキル」として定義してみたいと思います。


さて突然ですが、福本伸行さんの「カイジ」という漫画に登場する利根川というキャラクターの「質問」に関する印象的なセリフを紹介します。

質問すれば答えが返ってくるのが当たり前か。。。?


なぜそんなふうに考える。。。?


バカがっ。。。!


とんでもない誤解だ


世間というものはとどのつまり肝心なことは何一つ答えたりしない


住専問題における大蔵省、銀行。薬害問題における厚生省。


連中は何か肝心なことに答えてきたか。。。?


答えちゃいないだろうが。。。!


これは企業だから、省庁だからってことじゃなく、個人でもそうなのだ


大人は質問に答えたりしない


それが基本だ


<中略>


無論、中には答える大人もいる


しかしそれは答える側にとって、都合のいい内容だからそうしてるのであって、そんなものを信用するってことは、つまりのせられてるってことだ

賭博黙示録カイジ1巻より一部抜粋



質問しても求める回答が得られない、なんてことは誰しも体験したことがあるのではないでしょうか。


データアナリストであれば、「求められたデータ分析の目的を教えて下さい」と質問しても納得のいく回答を得られなかった、というような経験のある人は多そうです。


もちろん回答を得られることも多いでしょうが、「カイジ」の利根川曰く、それは回答者にとってそのほうが都合がいいからということのようです。


質問される側に立って考えてみましょう。


回答することが自らのメリットにつながるなら当然回答するでしょうし、逆に自らにとって都合の悪いことならなるべく答えたくないでしょう。


微妙なのが、メリットとデメリットどちらにつながるか判断できないときです。


ちょっとした確認程度の質問ならおそらくどちらでもないので、そのように悩むことはないでしょう。


ただし自分の回答によって質問者の行動等を左右しそうな場合は、自らにも何らかの影響があるかもしれないと感じて回答は慎重にならないでしょうか。


そしてその場合はリスク回避の観点からも、やんわりと回答を避けるとか差しさわりのない回答ですませておこうと思わないでしょうか。


つまり回答者にデメリットやそのリスクがあるかもと判断された場合、そもそもそのような質問には答えてもらえないのです。


回答可能性
メリットあり
デメリットあり ×
不明(リスク) ×


果たしてこれらの場合、「質問力」を磨くことでなんとかなるのでしょうか。厳しそうです。


ということを前提に、それでもなんとかする方法を考えてみたいと思います。


例えば、先回りしてデメリットやリスクを解消してあげられるように伝える。


質問に回答するために確認や調査など追加の作業が発生してそれなりの時間や手間をとられるといったことになりそうなら、忙しいときなどは特にデメリットと思われるでしょう。


この場合、質問するタイミングを見計らったり、調査などが必要なら自分がやるので指示だけお願いするなどなるべく回答者の負荷に考慮した質問の仕方をすると回答してもらえる可能性が上がると思います。


他にもデメリットやリスクを払拭できるように背景や事情などをきちんと説明したり、後で回答者に面倒をかけないように立ち振る舞うといったことを約束するとか、周りに他の人がいないところで聞くとか、リスクと思われないようなあまり差しさわりのない最低限のことだけ聞くなどすれば、回答者の不安も和らげられて回答してもらえるかもしれません。


例えば、人や立場によってデメリットがデメリットでない場合もあるのでデメリットを感じない人に聞く、なども可能なら良いかもしれません。


この場合、そういった人を見極める知見が別途必要になりますので限定的かもしれませんが、選択肢のひとつとしては検討しても良さそうです。


質問力の高い人は、上記以外にも回答者にデメリットやリスクを感じさせない技術に長けている気がします。


こうしたスキルを身に着けるにはどのような経験を積めばよいのでしょうか。


基本的には場数を踏んでPDCAを行っていくことなのでしょう。


その場合も簡単に答えてもらえる質問よりも、回答してもらえなさそうなことを如何に聞き出すかの方がより効果的かもしれません。


とはいえもちろん必要のないことばかり聞いたり、刑事さんの尋問シーンのように恫喝して聞き出したりするのは止めておきましょう。回答者との関係性が悪化してしまうかもしれません。


また一見の相手だと失敗するとPDCAできなくなるので、まずは継続的にお付き合いのある方が相手が良いかと思います。


万が一失敗しても後程フォローができたり、再度改善してチャレンジできる可能性もありますので。


余談ですが、私はフリーランスになって時々データ分析に関するご相談を問い合わせフォームやWebサービス等からいただくことがあります。


ご相談はほぼ一見の方々です。


その対応を行うにあたってまずはヒアリングとして詳しい事情や背景などを質問させていただくことが多いのですが、何割かの方は途中で音信不通になられます。


私の質問の仕方がまずかったのか、他で解決したのか、ただの冷やかしだったのか、フィードバックが得られないため原因を突き止めることも難しくなかなか歯がゆい思いをしています。


直接顔を合わせていたりあるいは電話などであれば、まだ相手の反応などから多少推し量れたり、即座にフォローなど行うことも可能ですが、メールやWebでのやり取りでの対応となるとより一層難しく感じますね。


またこの場合相談なので、相手からするとこちらかの質問がどうというより、自分の課題や困りごとがどこまで解決できるのか、その方法や対応能力はどういったものか、対価はどれくらいか、といったこちら側の見極めも大きく影響することでしょう。


つまり質問に回答してもらう以前に、「相手の質問に答える回答力」であったり、「メリットを感じてもらう提案力」であったり、「親身に寄り添う姿勢」であったり、「課題解決力」であったり、相手との間の信頼や信用といったものも重要なのでしょう。


質問をする前にそうした関係性をいかに構築できるか、あるいはできているかもポイントなのかもしれません。


こうなってくると単純に「質問力」だけの問題ではなくなってきますね。


もともと質問というのはそれ自体が目的ではなく、自らの課題を解決したり物事を進めるための手段のひとつなので、別のやり方もあることでしょう。


あまり質問をして回答を得ることにこだわりすぎずに、別の方法を考えることもできるという柔軟性も必要かもしれません。


また「質問力」を上げるために相手との間の関係性や信頼が必要となると、それを得るために「交渉力」とか「提案力」とか「営業力」とか「コンサルスキル」などが必要となって、とかまで話が広がってしまうと収集がつかなくなってしまいそうです。


ただ各種ビジネススキルとの関連性は深いので、質問力の育成もそれ個別でというよりは業務等を通じて総合的に経験を積んでいくのがよいのかもしれませんね。


もくもくとデータと格闘することで業務時間の多くを過ごすデータアナリストであれば、そうした経験が不足しがちになるので気を付けたほうが良いかも。