北海道と沖縄の子供の学力はなぜ他県より低いのか?

Quoraにて、データ分析目線で気になるQAがあったので紹介します。


北海道と沖縄の学力は他県より悪いそうですが、なぜ二つの県は学力が低いのでしょうか? - Quora


まずそもそも北海道と沖縄の子供の学力が他県より悪いというのは事実なのか?について。


質問の時期が不明ですが、回答を見ると2019年くらいのがあるので概ねそのころの状況についての質問ということでしょう。


回答にも記載のあった、文部科学省が行っている「全国学力・学習状況調査」を見てみるのが良さそうです。


2019年の小学校・中学校を合わせた全国学力テストの正答率の都道府県別ランキングによると、


沖縄県 41位
北海道 42位


という結果でした。確かに47都道府県中ということからするとどちらも下位と言えるかもしれません。


ちなみに1位は秋田県と石川県で同率でした。


詳細は以下の記事です。
2019年の全国学力テスト都道府県別正答率ランキング!1位は秋田・石川


Quoraの回答では、その原因について色々議論がされています。


主な意見としては下記のようなものです。


1.言葉(方言)の問題
・標準語に慣れていない?


2.親の経済力の差
・平均年収や賃金が低いことと、一方で東大生の親の平均年収は高い件などを引用されてました。


3.環境や県民性
・沖縄では米軍基地の騒音問題の影響がある
・両地域とも首都圏有名大学から距離が遠いため高偏差値を目指す人が少ない
・両地域とも競争意識が低くのどかな環境である


4.教育の予算や教職員の質
・色々背景や事情があるそうです。


いかがでしょうか?


中には「確かにそうかもしれない」と思える意見もあるかもしれません。


データからは、北海道や沖縄県の子供の学力は低く、秋田県や石川県の子供の学力は高いという結果が出ていますが、元々「都道府県の違い」だけで学力が決まるものではないという点は皆さん理解されているので、さらに踏み込んでそうした結果を生み出している見えない要因は何か?を議論されています。


ただ、候補として挙げられている原因は大体「どれも仮説」です。


おそらくこういう可能性が高いだろうという仮説止まりで、その正しさまでは検証されていないので、実際のところ正しいかもしれないし、間違っているかもしれない。


検証可能なデータが既にあるかどうかも不明ですし、そうしたデータを用意できるかどうかもなかなか厳しいものが多そうです。


また検証するまでもなく一般的に考えて自明であるとまで言い切れるものはちょっと見当たらないのではないかな、と私は感じました。


そもそも学力は大局的には「学習の量と質」が原因で決まると私は思います。


もちろん、ひとつの事を学ぶのに各人によって必要な学習時間は違うので相対的な差はあると思いますが、全体的な傾向としてはたぶん間違っていないかと。


学習の量と成績との関係については、相関が高いことを示すデータがいくつか見つかりました。


一例)

berd.benesse.jp



「学習の質」についてはなかなか定量的に表すことが難しいと思いますが、一応下記ではデータで示されているようです。


www.asahi.com


上記の記事では、学習の量と質とでは「質」の方が相関が高いという主張ですが、学習の質よりは低いながらも成績と学習量との相関性も同時に示されています。


つまり、沖縄県・北海道の子供の学力が低かったという結果は、学習の量と質が低かったということなのではないかと思います。


では、なぜ学習の量と質が低かったのか?


これについてはちょうど良いデータが見つからなかったので仮説止まりになってしまいますが、量に関しては学校での授業時間あるいは学校外での学習時間が少なかったなどはあるかもしれません。


沖縄では米軍基地の騒音問題で授業が中断されることも日常茶飯事とのコメントもあったので実際にそうだった可能性はゼロではないでしょう。(残念ながら裏付けとなるデータは見つけられませんでした)


さらに沖縄や北海道はのんびりした雰囲気や競争意識が低いなどありましたが、それが直接の原因かどうかはさておき、そうした事情「など」で学校以外での学習(予習・復習・塾での学習・親からの教育など)に当たる時間も実際に少なかったのかもしれません。


ちなみに北海道は小中学校生徒数1000名あたりの塾の数が3.03軒で、全国43位というデータはありました。(こちらのサイトより)


北海道については、塾が少ないことで学校以外での学習機会が少なくそれによって学習時間も少なくなっているという可能性は考えられそうです。


ただ沖縄県は14位とむしろ良い方なので、沖縄では塾が少なくて学習機会と時間が下がっているということはなさそうです。(となると、ほかのマイナスファクターの影響がそれ以上に強いのかもしれません)


また学習の質という点では、沖縄では昭和63年から学力向上対策が行われており、実際に平成19年から28年にかけてのデータでは学力の向上が確認されています。


https://www.pref.okinawa.jp/edu/gimu/jujitsu/shisaku/documents/h29gakuryokukoujousuisinproject1.pdf


なかなか授業時間を増やすのは難しいでしょうから、授業の質を色々と改善されてきたのだと推測します。


下記データを見ると、H28年度はそれまでより「めあて(目的)やまとめの記述」「振り返り」などに注力されてきたということがわかります。



ちなみに参考までにですが、秋田県・石川県の学力テストの正答率がなぜ高いのかについてダイヤモンドオンラインの記事にもまとめられていましたので、こちらも紹介しておきます。


こちらは2021年の学力テストの結果によるものですが、色んな設問の中でも両県は特に「評価し、熟考する設問」に対して全国平均よりも高い正答率だったそうです。


また両県の授業内容も、以下のように「対話型」「探求型」といった授業を行うクラスが多かったそうです。



こうした相関も学力の要因として無視できないものではないかと思います。


まとめると、学力調査の結果、北海道と沖縄の子供のランキングが下位だったのは、学習の量と質が彼らより上位の県と比べて低かった可能性が高いと考えられる。


なぜ、学習の量と質が低かったのかについては、主に環境的な面など複数の要因が複合的に影響していたと考えられる


といった感じでしょうか。


後者についてはちょっと苦しいかもしれませんが、実際のところ「これとこれが原因!」と言い切るのはなかなか難しいと思います。


おそらく1位と比べた場合、5位と比べた場合、10位と比べた場合とで学習の量と質の差はあれども、それが発生する要因はそれぞれ違ってくる可能性もあります。


なので、どこまで詳細に要因を調べるか、そのためのデータが用意できるかどうかということなども課題ではあります。


この辺の粒度というか塩梅も、仮説検証やデータ分析においてはケースバイケースで難しいところですね。