データ分析をする際に、注意すべき事項のひとつに「バイアス」というものがあります。
バイアスは偏りのことですが、データ分析においては分析するデータが偏っている、分析対象が偏っている、解釈が偏っている、などです。
バイアスがかかると客観的な正しさが失われる恐れがあり、間違った意思決定にもつながりかねないのでなるべくなら避けたいものです。
ただ無意識にバイアスがかかってしまっていることもあり、そうなるとなかなか自身では気づきにくかったりもするので完全に排除するのはそれなりに難しいものではあります。
Twitterで話題になっていた以下のニュースにもバイアスが見られるのではないかと思いました。
上記ニュースによると、小学生の発案で、重いランドセルを体感約90%軽くするスティックが発売されたそうです。
商品は「さんぽセル」という名称で、非常に人気で注文が殺到して3か月待ちという状況とのこと。
ただし、発売のニュースに1000件超の大人たちの批判コメントが並び、小学生たちは「さんぽセル事件」と呼び憤慨しており、これがTwitterで大きく話題になっていました。
ちなみに「さんぽセル」を使うと、ランドセルをキャリーバッグのように運べるようになるとのことです。
さて、これに大人たちが多くの批判コメントを寄せているということですが、その内容はというと主に「ランドセルを背負わなくなることによる危険性」です。
・ランドセルなら両手が空くが、これだと両手が空かなくなる
・ランドセルなら後ろ向きに転んだ時にガードできるが、これだとガードできない
・道は意外と凸凹だし、坂道もあるからランドセルのほうが楽なのでは?
などなど。
こうしたコメントに子供たちからは反論が上がっていますが、その内容がキレッキレということでTwitterでは好評価している人が多くみられました。
大人たちのコメントの内容を見ると、彼らは「ランドセルの使い方」を非常に気にしているように私には見えました。
ランドセルは「背負うもの」であることが昔は当たり前だったので、さんぽセルは間違った使い方をしていると思われているようです。
確かに昔だとランドセルを乱暴に扱って怒られるなんてことはよくあった気がします。
高学年になると結構ボロボロになって、一方できちんとしている子のランドセルはきれいなままで、比較されてちょっと気恥ずかしくなったなんていう経験がある方もいるかもしれません。
ところで、そもそもさんぽセルが開発されたのは、「脱ゆとりで重くなったランドセルを体感軽くなるようにするため」のようです。
「ランドセルが重い」ということについて気になったのでちょっと調べてみました。
2002年と2018年を比べると、脱ゆとりの影響で教科書は厚く重くなり、1.34㎏→2.70㎏と倍くらいになっているそうです。
通学時に持ち運ぶ荷物もなかなかの重さです。
特集 | 16年で教科書の重さ『倍』…ついに教育委員会が“置き勉”のススメ 脱ゆとり教育で厚く重く | 東海テレビ
ランドセル本体は、昔よりも素材等で工夫や改良がされていて数百グラム軽くなっているそうですが、それでも教科書やその他の荷物のほうがかなり重いので、総重量はおそらく昔より増えているのでしょう。
令和元年の7歳の子供の平均体重は、男女で少し差はありますが23~24㎏くらいです。
https://www.stat.go.jp/data/nihon/pdf/21nihon.pdf
体重23㎏の子供にとって、4.7㎏の荷物は自分の体重の約2割に相当します。
体重60㎏の大人でいうと、12㎏の荷物を毎日背負って通勤するようなものですね。
皆さんの通勤鞄の重さはどれくらいでしょうか?
ちなみに小型の電子レンジで10㎏~13㎏くらいなので、これを毎日背負って持ち歩くというイメージに近いのではないかと思います。
ランドセルを背負うことによる心と体の不調を表す「ランドセル症候群」という言葉も生まれているようです。
具体的な数字はちょっと見つかりませんでしたが、以下のサイトによるとやはり医学的にも宜しくないみたいですね。
平均11歳の男女8人の児童に4、8、12キロ(体重のおよそ10、20、30%)のバックパックを背負ってもらい、立った状態でMRIにより腰椎(ようつい)への影響を調べたという米国の研究があります。バッグの重さと椎間板(ついかんばん)が圧迫され隙間が狭くなる程度は比例すること、前傾してバランスを取ろうとするため猫背気味になることが、画像から確認できました。腰痛などの痛みの程度も、バッグの重さに比例して悪化していました。
また、重さが8キロを超えると、半数の子どもの背骨が、片側に10度以上傾いていることもわかりました。両肩で背負っていても、体の癖が出てしまうのでしょう。
重~いランドセル、中身増え平均7キロ 小1「肩凝る」:朝日新聞デジタル
改めてですが、「さんぽセル」はこうした重い荷物を運ばなければならないという課題に対する解決策のひとつであって、ランドセルを背負うではなく運ぶという「ランドセルの新たな使い方」を提唱したいというものではありません。
もちろん、さんぽセルを使うことによる危険性など別のリスクについて別途議論するのはよいと思いますが、それはランドセルを背負うことと比べるものではありませんよね。
私自身、小学生だったころランドセルが重くて大変だったという記憶はあまりなかったので、ランドセルの重さをなんとかしたいという思いは正直なところ最初あまりピンとこなかったです。
それで、そのころと今のランドセルの重さはかなり違っているのでは?ということが気になって上記のデータなどを調べてみました。
ひょっとするとさんぽセルを批判している大人たちもこの「ランドセルの重さ」が非常に問題になっているということを知らないのかもしれませんね。
そうなると本質的な課題に目が向かずに、バイアスがかかった方向に議論や分析が展開してしまう恐れもあります。
なるべく思い込みで論を展開する前に、本来の目的や課題をしっかり認識して客観的な事実やデータをまずは確認してみることを気にかけたいものです。