人事データの分析

退職者予測分析


人事データを使った分析の例として、退職者予測分析というものがあります。


少しググるとこれをサービスとして提供している企業も結構あるみたいです。


退職者予測分析は、現在在籍中の社員が数か月後に退職してしまうかどうかを予測するものですが、こうした分析結果は実際のところ活用されているのでしょうか?


普通に考えると、在籍社員の退職リスクが可視化されるので、優秀な社員や辞めてほしくない社員を引き留めるのに使われていそうですよね。


しかし、退職可能性の高い社員がわかったところで果たして実際に彼らを引き留めることなどできるのでしょうか?


退職予測が立っているということは退職兆候が顕在化している段階でもあるので、そこから引き留め交渉をしても既に手遅れであることが多く、なかなか難しいのではないでしょうか。


優秀な社員であるほど行動や判断が早く、退職兆候を検知した段階では既に転職活動を始めていたり、他社から誘われていたりする可能性が高いものです。


そもそも彼らが自社で働き続けたいと思えるような仕組みや待遇、制度、環境などが、普段から整えられていなかったのに、彼らが退職を考え出してから慌てて準備しようとしても結構無理がある気がします。


かといって個別の条件交渉をしても、隣の芝生は青く見えるものですから、なかなかそれで覆すのも厳しいでしょう。


また最近静かな退職(Quiet Quiting)というケースも増えてるようです。


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労働意欲が低下した社員がいても、彼らは退職するのではなく、必要最低限の仕事しかせずに在籍し続けるというものです。


こうした方々は退職しないので、退職予測候補からはどんどん外れていきます。


下手に彼らのデータを学習させると、彼らのような社員が辞めない社員のモデルになってしまうので、そうでない社員がみんな退職予備軍になってしまったりするかもしれません。


では退職者予測なんてしても意味のないことなのでしょうか?


もちろん意味ないとまでは言い切れませんが、退職者を予測して個別対応をとるよりも、より全体最適の観点で考えるという方が重要だと思われます。


従業員エンゲージメント分析


従業員エンゲージメントを測るサーベイを実施する会社が増えているようです。


従業員エンゲージメントとは、会社と従業員との関係性を指す指標のようです。

例えばその会社の理念やビジョンへの共感度合い、それらを体現した行動の有無、業務・同僚・上司・システムなど職場環境に対する満足度、将来またはキャリアへの展望や意気込み、プライベートとのバランス、健康状態などなど。


多くの企業では定期的にこうしたデータを収集されていると思います。


それに加え、実測値として得られる勤怠状況や評価・実績などのデータも組み合わせて、人事や経営サイドでは様々なデータの収集・分析がなされているかと思います。


こうしたデータを先の退職者予測に使用されることもあるでしょうし、シンプルに傾向をレポートにまとめて人事制度や社内環境の改善等に役立てられたりしているかもしれません。


中でも、これらの従業員エンゲージメントのデータと企業の生産性との関係を分析することには非常に意味があると思っています。


企業や部門の生産性と相関の強いエンゲージメント項目は何か?を分析し、その項目をKPIとして、その数値を伸ばすための活動や環境整備などを行う。


単に世の中で流行っているからといって、リモートワークや副業・DX化などを取り入れるよりも、全体の生産性の向上に相関が強いものは何かをきちんと分析することで、優先度を判別し、相関の強い項目はさらに伸ばそうと積極的に考えられるようになっていくのではないかと思います。


少し古いですが、エンゲージメントと生産性の関係性の分析の研究結果も紹介しておきます。


japan.cnet.com


ただ、このエンゲージメント分析は非常に難しい分析でもあるかと思います。


まず生産性をどう定義するかも簡単ではありません。全体最適が望ましいが、部署や職種ごとにも検討すべきか、なども課題でしょう。


また見せかけの相関になっているデータも多くあるでしょうから、因果関係があると誤解しないように気を付ける必要があります。


生産性に影響を及ぼす変数としては、エンゲージメントだけでなく、個人の経験やスキル、リーダーのマネジメント、顧客や市場の環境など他にもたくさんあるので、そうした影響に惑わされずに分析する必要があります。


例えば、もし平均給与が高いチームほど生産性が高いという結果が出たとしても、それは給与を上げれば生産性が上がるというものではなく、実績やスキルのある人が多いからこそ平均給与も高くなっていたとも考えられます。


実際にそうやって分析をしてみると、退職率なども低ければ低いほど良いとは限らないので(低すぎると辞めてほしい人がいつまでも辞めない、Quiet Quittingが増えるなど)、どれくらいの水準を目指すべきか、そのための施策としての重要度なども判別しやすくなります。


ちなみにエンゲージメントはアンケートというやや曖昧さのあるデータが主なので、毎回キレイな傾向が出るとも限らず、質問設計や集計後の構造化も難しいという課題もあったりします。


私自身人事データの分析は昔偶々案件があって少し関わったことがある程度の経験なので、他にも様々な課題や苦労するポイントはあるかもしれません。


とはいえ、また機会あればこうした分析にもチャレンジしてみたいですね。


個人的には、一見生産性とはそれほど関わりなさそうなエンゲージメントが実は重要だという発見があるのでは?なんて思ってたりします。