国の自殺対策についてデータで考えてみる

www.sankei.com


上記の記事がネットでちょっと話題になってるみたいです。


記事の内容は以下にて紹介いたします。

政府は14日、国の自殺対策の指針となる新たな自殺総合対策大綱閣議決定した。
新型コロナウイルスの影響による生活環境の変化を踏まえ、自殺者数の増加が目立つ女性の支援を「当面の重点施策」に位置付け対策を強化。
来年4月に発足する「こども家庭庁」と連携し、子供や若者の自殺防止に向けた取り組みを進めるとした。


「女性、子供や若者」を対象とした自殺防止のための対策を強化していくそうです。


ネットでは、男性や中高年などは放置するのか?と政府の方針に対して批判的なコメントが散見されました。

大綱は5年ごとに見直される。今回は現状について、自殺者数は減少傾向だが毎年2万人を超える水準で推移していることから「非常事態は続いている」と指摘。コロナ流行で自殺の要因となるさまざまな問題が深刻化し、女性や小中高生で増加していると分析した。


自殺者数自体は年々減少傾向のようですが、女性や小中高生では増加しているそうなので、これを問題視したというのが背景のようです。

令和3年の女性の自殺者数は7068人で、コロナ禍の中、2年連続で増加。新大綱に基づく対策では、雇用問題を重くみてハローワークでのきめ細かな相談支援などを実施。予期しない妊娠で悩みや不安を抱えた若い妊婦のサポートを拡充する。学校や地域の支援者らが連携して子供の自殺を防ぐ仕組みも構築する。


具体的な対策の中身は3点挙げられています。

  • 雇用問題を重くみてハローワークでのきめ細かな相談支援
  • 予期しない妊娠で悩みや不安を抱えた若い妊婦のサポートを拡充
  • 学校や地域の支援者らが連携して子供の自殺を防ぐ仕組み


ここまでの内容で、皆さんはいかがお考えでしょうか?


ネットの意見のように、男性や中高年に向けての対策はなぜ行わないのか?


上記の対策内容で本当に女性や子供の自殺者は減るのか?


私自身は、なぜ上記の対策を行うべきなのかの根拠が不明だと感じました。



厚労省の自殺の統計(https://www.mhlw.go.jp/content/R3kakutei01.pdf)によると、上のグラフのように女性の自殺率はここ1、2年で確かに増えていますが、男性の方が元々倍ほどの数値です。



年齢別の内訳を見ても、確かに10代と20代はこの1、2年はそれ以前と比べると死亡率の増加傾向はみられます。


ただ、他の年代の自殺死亡率も決して低い値ではありませんし、40代も同様に増加傾向になっています。


職業別のデータもありますので、合わせて紹介します。



最も多いのは無職者、次いで被雇用者・勤め人となっています。


国の対策の対象になっていた学生・生徒等は数としては少ないですが、この1、2年は確かに増えています。


次に自殺の原因・動機別のデータも見てみましょう。



近年一番多い原因は健康問題、次いで経済・生活問題、家庭問題となっています。


近年の推移はあまり大きな変動はなさそうですが、昨年から今年にかけて最も大きく増えたのは経済・生活問題のようです。


各原因について、もう少し詳しく書かれているのは以下のページです。



それぞれの原因の例がいくつか記載されています。


また上記の資料によると、様々な原因が複合的に連鎖して、最終的にうつ病等の健康問題が生じて自殺行動にいたるのではないか、とのことです。


さて、もう一度先ほどの国の3つの対策をそれぞれ振り返ってみましょう。


無職者の自殺者が最も多いことから、彼らの自殺者数を減らすという観点では1つ目の対策は方向性は間違ってないのかもしれません。


ただ、無職者の人たちが仕事が見つからないために生活や将来に不安を感じていて自殺につながっているとすると、それは果たしてハローワークでのきめ細かな相談支援で解決できるのかどうかは疑問です。


求人の探し方がわからない、求人が見つけられない、どんな仕事を探せばよいのかわからないなどの事情があるならば、相談支援の効果は見込めそうですが、そもそも応募可能な求人が少ないとか、求人に応募しても落ちるのが職を得られない原因だとすると、相談支援ではなく、企業サイドの助成金の拡充とか職業訓練の充実などの対策の方が重要な気がします。

  • 予期しない妊娠で悩みや不安を抱えた若い妊婦のサポートを拡充


2つ目の対策についても、もちろん行わないより行う方が良いのですが、なぜこの対策なのかといった理由に関してはちょっと不明です。


女性の自殺が増えているというデータはありましたが、予期しない妊娠が原因とか、女性でも特に若い妊婦の自殺が増えているといったデータは特に見つけられませんでした。


おそらく産後うつによる自殺や、出産により仕事を辞めざるを得なくなって経済・生活問題に連鎖しての自殺などは想像できるので、サポートというのはそれら健康問題、経済・生活問題など幅広く対応するということなのでしょうか。

  • 学校や地域の支援者らが連携して子供の自殺を防ぐ仕組み


3つ目の対策も、子供の自殺を防ごうとするのは良いと思うのですが、「学校や地域の支援者らが連携する」というのが具体的にどのような課題の対応につながるのか想像がつきにくいです。


子供の自殺要因は、学業不振や進路、恋愛、友人関係、将来への不安などの悩みが原因なのかもしれませんし、家庭の経済環境や家族の影響なのかもしれないので、学校や地域の支援者の対応でどこまでできるのかが気になります。




では、最後に私なりにこれまでのデータ等を踏まえて分析してみます。


対策を行うのであればその原因をしっかり把握しなければならないので、年齢別データや男女別データに着目するよりも、原因別データを深堀っていくべきでしょう。


基本的には原因とそこに至る状況や構造をしっかり把握して、それぞれの原因ごとに対策を検討・実行し、その原因を起因とする自殺者数の推移を見て、効果が出ているかどうかを振り返り改善を重ねていくやり方が良いかと思います。


原因別データによると、まず自殺者数の最も多い原因である「うつ病等の健康問題」、この対策をまず検討すべきでしょう。


この健康問題は、その他の問題から連鎖すると考えられており、それには私も賛成です。


なので、この対策を行うことで「健康問題」以外の問題に対する改善効果もある程度期待できるのではないかと思われます。


もちろん健康問題の対策だけでは如何ともし難い原因もありますので、健康問題以外の問題に対する対策も別途必要です。(失業、多重債務、過労、生活苦など)


具体的な対策内容についてはさらにデータを分析し、現状の課題と優先順位を判別した上で検討することになるかと思います。


例えば、「うつ病等の健康問題」の対策については、単純に考えるとその問題の対応を行うことができる環境を広げていくために、施設(場所)、機会、医療従事者などを増やすことが思いつきます。


日本ではメンタルヘルスカウンセリングの市場が300‐350億円くらいとまだまだ小さく(占いだと1兆円規模)、精神科医公認心理師も不足しているようです。


https://kepple.co.jp/articles/special/sghbxn_f9gl
http://hinata.website/archives/20922797.html


よって、これら市場の活性化やカウンセリング可能な人材の増加などが必要と考えられます。


といった感じでデータを元に、原因となっている現状の実態やそこに生じている課題などを明らかにして、対策を検討していく流れになるのではないかと思います。


ビジネスの場でも、例えば若い女性顧客が多いというデータを見て、彼女たち向けの施策を思いつきで何かやってみるなんてことは、誰しも聞いたことがある話かもしれませんが、それはデータドリブンであるとか、データ活用できているとは言い難いのではないかと思います。


データを使ってロジカルなストーリーやシナリオを作れることがデータドリブンではないかと思うので、そういう方向性を目指しつつ今後もデータ分析していきたいものです。