ID-POSデータの分析と活用の方向性

ID-POSデータとは


POSデータはPoint of Salesの略で、いつ、どの商品が、どれくらい販売されたかが分かるデータです。


ID-POSデータは顧客を特定するIDがPOSデータに紐づいています。


POSデータとの違いはそれだけですが、ID-POSデータであれば「誰が購入したか」も分かるようになります。


IDはあらかじめWeb等で顧客に会員登録をしてもらったり、ポイントカードを発行することでデータとして管理されています。


ID-POSデータのメリット


POSデータだけでは商品の販売傾向の分析しかできませんが、ID-POSデータであればそこに顧客軸も加えて分析することが可能です。


例えば、この商品はよく売れているがどのような顧客が購入しているのか、商品の販売数が減少しているときに購入しなくなった客はどのような客なのかを調べたりできます。


また同じ顧客が繰り返し同じ商品を買っているかどうかも分かるので、リピート購買が判別できます。


リピート購買の多い商品かそうでないかで今後の売れ行きの傾向もつかめます。


さらには顧客について深堀った分析も可能になります。


特定期間の間に、何回来店してくれているのか、どれくらいの金額の買い物をしてくれているのか、よく買う商品は何か、よく来る時間帯や曜日はいつか、最近来なくなってはいないか、などなどを調べることも可能です。


こうした情報を販促やキャンペーン、品揃えや棚割りなどに活かしているところも多いでしょう。


ID-POSデータの分析は結構ポピュラーなので、扱ったことのあるデータアナリストもたくさんいると思いますし、ネットでも多くの活用事例や分析手法等が見つかることと思います。


ID-POSデータの課題


一方ID-POSデータを活用する上で課題もあります。


IDを識別できるPOSデータ以外のデータに対しては、顧客軸で分析するといったことができません。


全てのPOSデータにIDが紐づいているなら別ですが、IDが紐づく顧客がごく一部しかいないということになれば、それ以外の大部分のデータはただのPOSデータとなります。


一応IDが紐づく顧客の割合が低くても人数がそれなりにいれば統計的に有意な分析は可能です。


ただ、IDが紐づく顧客に偏りがでてしまっている場合はその限りではありません。


IDが識別できるのは何らかの形で会員登録してくれている顧客ですが、どのような顧客も等しく会員登録してくれているとは限らないでしょう。


わざわざ会員登録してくれているということは、そうでない顧客と比べてバイアスがかかっている可能性があります。


会員登録をする顧客は今後もそのお店やWebサイトを利用するつもりがあるなど、最初から顧客としてある程度「良いお客さん」であったりするかもしれません。


顧客側からすると今後も利用するならともかく、たまたま来店しただけで次また利用するかどうか不明ならばわざわざ手間をかけて会員登録したいとは思わないのではないでしょうか。


つまり、一見客やバイアスの低い顧客についてはIDが取得できていない可能性が高くなります。


そのためID未取得の顧客の中にはそうした顧客が多く、逆にID取得顧客の中にそうした顧客が少なければ、偏りが出ていることになります。


その状態で手持ちのID-POSデータで例えば1か月の来店回数ごとの人数分布や平均来店回数などを集計しても、実態(顧客全体のデータ)とはズレが出てしまうかもしれません。


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そうした点をきちんと踏まえて分析等に使用しているなら問題ないのかもしれませんが、そうでないとミスリードしてしまう可能性もあるので要注意ですね。


またビジネスモデル等にもよりますが、むしろバイアスの低い顧客について分析したいというニーズもあるので、その点でもID-POSデータは限界があります。


バイアスの低い一見客のような顧客を分析して、どうすれば彼らに再来店してもらえるのか、どうにかして再アプローチできないかなどを気にする事業者も多いと思いますが、彼らはそもそもIDがないからデータも取得できないしこちらからコミュニケーションもとれない、もしIDがあっても購入回数が少ないのでデータが1~数件しかなく傾向もつかみづらい、など如何ともしがたいという経験のあるアナリストもいるのではないでしょうか。


ID-POSデータの可能性


ECサイトWebサービスでは、顧客管理の観点からも会員登録が必要なところが多くなっています。


ただし購買や利用において会員登録必須としてしまうと、会員登録を面倒に感じる人々や個人情報保護やプライバシーを気にする人々などが離れていってしまう可能性が高くなるので、機会損失も増えてしまいます。


そのため多くの事業者は会員登録を極力簡単にしたり、多くの顧客が既に持っているSNSのアカウント等を利用できるようにしたり、個人情報保護法の遵守をアピールしたり、キャンペーンなどによるインセンティブで会員化を促したりと色々努力されています。


リアル店舗においても、共通ポイントカードを導入したり各種電子マネー等に対応するなどID顧客を取り込む動きがなされています。


もちろんこれらは単純に会員を増やすためというのが目的ですが、それによって一見客や見込み客のID付きデータが増えてくれば、顧客全体の傾向がとらえやすくなったり、それらの顧客についての分析も可能になってきます。


また購買情報のPOSデータだけでなく店舗やサイト内での行動履歴データなど他のデータもIDと紐づかせて活用しようという取り組みも進められており、より顧客を深く知るための分析も可能になりつつあります。


あと個人的に期待したいのは、商品データの充実です。


家電などではスペックなどの商品の詳細データもそろっているかと思いますが、低単価のものやアナログな商品であればカテゴリや値段といったデータくらいしかなかったりして、分析軸も制限されてしまいます。


分析や集計のために独自にタグ付けするということも不可能ではありませんが、データ管理上のコストやデータの客観性がどこまで担保できるかなど課題も多く、あまり現実的でない場合が多いです。


ただデータが増えると分析軸も増えて新たに見えてくるものもあるかもしれないので、少しだけ期待を持ちつつ、、、といったところですね。