データ分析は意思決定につなげてこそ意味がある。
そんなことを言う人も多いかもしれません。
しかし、データがあればはたしてそれだけで意思決定できるのでしょうか。
例えば、施策Aと施策Bどちらを実施すべきか?
あるデータアナリストは、各施策の過去実績の売上分析の結果を持ってきました。
施策Aは実施前と比べて売上が平均20%アップ
施策Bは実施前と比べて売上が平均5%アップ
統計的にも有意差ありなので、施策Aを実施した方が良いとのこと。
また別のデータアナリストは、同じデータで新規客数に着目した分析結果を持ってきました。
施策Aは実施前と比べて新規客数が5%アップ
施策Bは実施前と比べて新規客数が20%アップ
将来のLTVを考えれば新規客を多く取り込める可能性の高い施策Bを実施した方が良いとのこと。
意思決定する側になったとして考えてみると、施策AとBのどちらを実施しますか?
もし最初に「短期的な売上効果の高い方で決める」などの判断基準が具体的に決まっていたならば、意思決定は容易です。
短期的な売上効果を示すデータがあれば、それを見て単純にその大小を判断することは誰でもできるでしょう。
しかし、どのデータを意思決定に使うべきか?といった「判断基準」をあらかじめ設計できるかというと話は別ではないでしょうか。
データがあれば意思決定できると誤解している人も多いのですが、意思決定に必要なのはデータ以前に「判断基準の設計」の方が大事です。
この判断基準というのは、意思決定者の頭の中にふわっとした形で存在はするのかもしれませんが、具体的に言語化するのは簡単ではありません。
「Xというデータがα以上であれば案Aを採用する」といったように非常にシンプルな形にまで落とし込められれば良いのですが、なかなかそうはいかないことの方が多いでしょう。
実際にはXだけでなく、YやZなどのデータも考慮すべきではないか?さらにはデータにはないP、Q、Rなどの観点も検討すべきではないか?など、ある一つのデータを見て判断するのではなく、多角的な視点で総合的に検討した方がより良い意思決定ができるのではないか、と聞くとどうでしょうか?
意思決定といっても色々なものがありますが、特に影響の大きいものであるほど、失敗したくない/後で後悔したくないという損失回避の傾向が強くなるため、「色々なデータや観点で」「十分に議論・検討して」「総合的に判断する」のが一般的なのではないかと思われます。
私もそれはそれで間違っているとは言いませんが、そうなると先の「Xというデータがα以上であれば案Aを採用する」といったシンプルな判断基準に落とし込むことは大変難しくなるため、最終的にどうやって判断すべきか?が客観性を欠いた曖昧なものになってしまいやすいのではないかとも思います。
かといって、ひとつの観点で評価しても良いのか?ほかの観点は無視して良いのか?というのもなかなかYesとは言い切れないでしょう。
ではどうすれば良いのかというと、最終的な「総合評価」というのを意思決定者の主観で決めるのではなく、なるべく定量的かつ客観性のあるようにすることだと思います。
代表的なやり方は複数観点の評価基準を一元化することです。
例えば、評価すべき観点が複数あるとして、それぞれの観点の評価結果を〇×△と示したり、あるいは点数化することで、〇の数や合計点数で最終評価するというやり方です。
項目 | 案Aの評価 | 案Bの評価 |
観点X | 3 | 0 |
観点Y | 1 | 2 |
観点Z | 1 | 2 |
合計 | 5 | 4 |
上記の例でいえば、3つの観点で案AとBを評価した結果、最終的に案Aは合計5点、案Bは合計4点なので、案Aを採用するといった感じです。
実際にコンペなどではこれに似た形で評価されることもあるようですね。
ただこの場合、定量化するための〇×△や点数化の「客観性」が大きな課題ではあるので、その難しさも付きまといます。
つまり〇×△は評価者の主観で決めるのはNGで、そのつけ方にも客観的な根拠が必要になります。
また観点Xの〇と観点Yの〇は同じ〇一つとして評価して良いのか?というのも議論が必要でしょう。
観点によって優先度や重要度に差があるのはあり得ることなので、場合によっては重みづけ(観点Aの〇は2つ分としてカウントするなど)をしたり、足切り(観点Aは重要なので×評価なら問答無用で不採用など)が必要になることもあるでしょう。
また観点の洗い出し(不足がないか、類似や重複がないか)などもしっかり精査する必要もあるでしょう。
このような総合評価の設計がきちんとできていないと、いざ意思決定する場になって様々な評価結果やデータが揃っていても、それをどう料理して結論を導けば良いのかに困ってしまい、結局えいやっと主観で決めてしまうということに陥りかねません。
ちなみに上記の設計はあくまで一例です。この他にも色んなやり方はあると思います。
ただいずれにせよ、観点や評価指標が多くなればなるほど、それらを全て踏まえて最終判断に導くための客観性のある設計の難易度は跳ね上がると思われます。
データが十分あっても、意思決定って本当に難しいものですね。