データ分析職のアンマッチ採用を避ける方法

業界内では、データ分析職のアンマッチ採用が結構発生しているのではないかと思われます。


昔も今も転職エージェントから明らかに経験や要望と異なる求人を紹介されることはよくありますし、私が求人側の時にも明らかに募集要件と異なるバックグラウンドの方からも頻繁に応募があったりしました。


また実際にそのときデータ分析職として働かれていても、あまりやりたい業務ではないということで、より自分の希望に適した企業やポジションを探して転職していかれる方もたくさん見てきました。


以前だと、データ分析職ならばデータサイエンティストというなんでもできる?人をとりあえず募集すれば良いと考えられていたりするところもありました。


最近はもう少し細分化されたタイトル別の募集になってきたりはするものの、それでも同一のタイトルのJob Descriptionの内容は結構似たような文言が多く、かつ抽象的で具体的にどんな業務をするのかイメージしづらいものもよく見かけます。


ということで、JDと自身の経験や志向を比べて何かしら共通しているだろうと誤解されてしまったり、よしんば入社できても実際に働いてみてアンマッチを感じてしまう人も一定数発生してしまうのでしょう。


よって、タイトルへの回答は「Job Descriptionに可能な限り、担当業務を詳しく書くこと」ではないかと思います。


当たり前といえば当たり前ですが、とはいえ公開できない情報もあるので詳しく書けないとか、そもそも具体的な業務定義ができない事情などもあったりするので、なかなかそう簡単ではないようです。


ひとつエピソードを紹介します。(細かい点は変えてます)


とある企業で新卒でデータ分析職を10名ほど採用したことがありました。


しかし、そのうち半分ほどは3年以内に退職されました。


結構な数です。


ただ、逆に言えば半分ほどは残ってくれているわけです。


辞めた人と残ってる人の違いは何だろうかと考えてみて、ひとつ思い当たることがありました。


それはサマーインターンに参加してくれた人たちです。


サマーインターンに参加してくれた方々は全員残っている側でした。


このインターンは実際に業務体験をしてもらうものではありませんでしたが、実際の業務事例を紹介したり、類似案件のワークショップに取り組んでもらったりする内容で、入社後の業務内容に近しいものを知る良い機会だったと思ってます。


ただ残念ながらそれ以外の主な接点の場である面接などの場においても、実務に詳しい人が担当しなかったため、サマーインターン以外の場でそうした実業務を詳しく知れる機会はほとんどなく、サマーインターン未参加の学生の間ではアンマッチが発生しやすかったのではないかと想像しています。


もちろん退職者とそれ以外の違いが、サマーインターン参加有無だけとは限りませんし、たまたまなのかもしれません。


とはいえ表題のようにアンマッチをなるべく避けたいのであれば、なるべく詳しく業務内容について情報発信する機会を探し、実際になるべくたくさんそうした情報を発信することが一つの解決の指針ではないかと感じる今日この頃です。

「データ活用の基本」というテーマで勉強会を実施したよ

先日、勤めている会社にて「データ活用の基本」というテーマで社内勉強会を実施しました。


自分のミッションとして、社内のデータ活用を進めるというのもあるのです。


ちなみに勉強会の対象は全社員です。


とはいえ、参加は任意で興味ある人だけ聞きに来てねという感じで実施してます。


蓋を開けてみると、オンラインだったので参加しやすいのもあってか、数百人以上が参加してくれました!


そして「大変参考になった」「全員に受けさせるべき」などの感想もいただき、うれしい限りでしたね。


好評だったのでブログでも内容を紹介したいと思います。資料は一部改修していますが、以下になります。



さらにこの続きで「データ分析の基本」というテーマで、第二弾の勉強会も予定してます。


ちなみに中身は因果推論の紹介です。


相関を調べるだけだと因果関係を誤解する恐れもあるので、因果関係があるのどうかもしっかり意識して分析を行ってもらうための内容にしています。


そちらについては、自社事例等も多くなるのでスライド共有は難しいかもしれませんが、後日また何らかの形で紹介するかもです。

データ分析をどこまで行うかのケーススタディ

データ分析は正解がありそうで、実はそうでもない業務です。


データの集計や統計処理に限れば、正解といえるものはあります。


しかし、どのデータをどの手法を使ってどのように分析するかは、人によります。


データの解釈も何と比較するかで変わってくる可能性があります。


どこまで分析を深堀りして行うかも、担当の人次第です。


例えば、以下の題材について、皆さんならどのような分析を行うでしょうか?(どこまで分析を行うでしょうか?)


なお、批判したいわけではないので出典を述べるのは避けます。(少し内容は改変してます)

ある県で既婚女性の就業率について調べたところ、


20代後半⇒30代前半にかけて、大きく落ち込んでいることがわかった。


これはいったん就労した女性が、20代後半から30代の出産・子育て期に離職することが原因と考えられている。


(その後40代前半くらいにはまた回復してくる)


これを問題として、データ分析を実施。


全国平均と比べてもこの落ち込みはやや大きくなっているので、いくつかの仮説を持って複数の分析手法を使い、全国との違いを調べた。


結果、この県では全国平均と比べて以下が低いことがわかった。


保育所定員比率(保育所定員数の対象年齢人口に対する割合)
・女性正規雇用者割合


そこで以下の施策を予算化して実施することになった


・科学技術などの専門分野に携わる女性を増やすための応援事業
・女性が正規雇用者として働き続けることができるよう企業トップに働きかける事業


いかがでしょうか?


個人的には腑に落ちない点や分析が足りないのではないかという点がいくつか見受けられます。


まず、なぜ全国平均と比べたのか?


ちょっとこれは意図がわかりませんでした。


ギャップを調べたいならば、30代既婚女性の就業率の高い地域と比較した方が差が顕著に出るでしょう。


また全国平均だと明らかに環境の異なる都道府県も含まれるので、その後の対策を考える上でも宜しくない場合が多いです。


都会と田舎、世帯人数の少ない地域と多い地域、女性就業支援にかける予算規模が大幅に異なる地域などは、ギャップを埋めるのが非常に難しく、比べてもあまり意味ない可能性も考えられます。


なるべく環境の近い都道府県と比較する方が、施策の実現性が高くなると思いますので、そうしたところをベンチマークにするやり方もあるかと思います。


上記の施策内容は果たして効果的なのかどうか?


保育所定員比率や女性正規雇用者割合がなぜ低いのかまでは分析がされていないので、施策との関連性が不明に思われました。


直接的には保育所定員を増やす施策が考えられますが、それは実施されていないようです。


上記の施策による効果が本当に見込めるのかどうか、やってみて効果検証されるのかは気になるところです。


もし自分ならば、どうだろうか。。。


保育所定員比率について


保育所定員比率が高くて30代既婚女性就業率も高い地域の状況を分析してみると思います。


そうした地域がなぜ保育所定員比率が高いのか原因を探ってみたいですね。


保育所にかける予算割合が高いのか?(予算を増やすべきか?)


・保母さん/保父さんの割合はどうか?(彼らの人数を増やすべきか?)


またもし過去には保育所定員比率が低かった地域があれば、どのようにして高くできたのかも気になるところですね。


参考にしたり模倣したりできるかもしれないので、具体的なアクション候補を探るという意味ではありではないかと思います。


ついでに、保育所定員比率が高いが30代女性就業率は低い地域も調べて、何か落とし穴や注意点などないかも調べておけるとベターかもしれません。


女性正規雇用者割合について


こちらはちょっと要注意の指標です。


もともと30代既婚女性の就業率が落ち込んでいるのは以下の原因が想定されていました。

これはいったん就労した女性が、20代後半から30代の出産・子育て期に離職することが原因と考えられている。


彼女らは出産・子育てのために離職しているので、それによって正規雇用者割合が下がった可能性が考えられます。


まさか正規雇用者割合を上げるために、彼女らに離職させないようにすることはないでしょうから、単純にそのまま改善すべき指標かどうかは疑問です。


もちろん正規雇用率を上げること自体は反対ではありませんが、これを上げたとしても本来の目的である30代既婚女性の就業率アップに効果的かどうかはわからないのでは?と思います。


そもそも元々の就業率は働いている人の割合なので、非正規も含まれているのではないでしょうか。


なので、非正規⇒正規を増やしたとしても、就業人数そのものは変わらないなんていう可能性もあります。


よって、非就業の30代既婚女性の方に目を向けて、彼女らがどのような方なのか?


彼女たちは就業を希望しているのか?


就業を希望しているのにかなわないのであれば、その原因は何か?


といったところまで調べる必要がありそうです。


最初の保育所定員比率については、保育所の定員がいっぱいで子供を預けられなければ、仕事に復帰したくてもできないという女性がいて、就業率が下がるのは理解できます。


また30代女性だと子供もまだ小さいと思いますので、時短勤務が可能とか有給休暇がとりやすい仕事でないと就業できないということならば、そうしたことが可能になるよう企業に助成金など働きかけることも考えられます。


さらに、子供はいないが就業できていない女性が多いのならば、その対策も必要となるでしょう。


就業支援もそうですが、セーフティネットの強化などが優先になるかもしれません。


いずれにせよ、自分なら30代既婚女性の就業率が低い原因が何かをもっとはっきりさせたいと思うでしょう。


この辺りどこまで分析するかは、やはり人によって違いが出てくるところでしょうね。


データ分析を深堀りしていくことで、適切な施策を見極め、施策の成功率を高められる可能性はありますが、一方で「えいや」と見切り実施した施策が当たるということもあります。


どこまでやれば正解、とまでは言い切れないので難しいところです。


まあデータがなくてここまでの分析しかできない、ということもあったりはします。


ただ、少なくともこの分析におかしいところはないか?


未確認や不足してる部分はないか?


論理が飛躍していないか?


などは自分の中ではなるべくこだわっていきたいと思う部分だったりします。


他者の分析をレビューする際は鬱陶しいと思われたりしてるかもですけどね。

成長産業におけるデータ分析

前回のブログ記事では、衰退産業におけるデータ分析について考えてみました。


ということで、今度は逆に成長産業におけるデータ分析について考えてみたいと思います。


今だと、AIやデジタル技術を用いた分野などが想像しやすいのかもしれません。


実際にそのようないくつかのスタートアップ企業の業績を見ていると、毎年数十パーセント以上の成長率で事業拡大してるところも珍しくありません。


こうした業界では、果たしてデータ分析はどのような役割を担っているのでしょうか?


いきなり結論から述べてしまうと、こうした業界ではデータ分析は「不要」と見なされていることが多いようです。


正確に言うと、データ分析よりも優先度の高い仕事がたくさんあるので、後回しにされているといった方が良いかもしれません。


とにかく行動第一、スピード重視で動けば新たな顧客も増えるし、売上は拡大していくのです。


悠長にデータを集めて分析して次のアクションを考えるなどしていたら機会損失してしまいます。


どんどん人も雇って、新規顧客の獲得や販路の開拓をする方が重要視されるのは不思議なことではないでしょう。


もちろんエンジニアも増やして、プロダクトやサービスの改善もスピード感を持って進められます。


ただし、こちらもデータでログを分析して改善ポイントを見極めるなんてことはあまりしません。


直接ユーザの声(VoC)を聞いて、いち早くそれを反映するように開発が行われていきます。


とにかく売れそうな機能、逆に放置すると離脱されそうな不具合、重要顧客の声などは高い優先度となり、データ分析の出番はあまりありません。


しかし、そうした高成長率もずっと続くわけではありません。


どこかのタイミングでユーザの離脱が増えたり、規模拡大が伸び悩んだりしてくる可能性があるので、そうした際に備えてデータ分析の導入が検討され始めます。


これまで成長産業ということもあり、勘と経験でやってきてもほぼ失敗することはなかったが、今後はそういうわけにもいかないだろう、データをちゃんと分析して精度を上げていくことが必要だ!と考えられるようになるといったイメージです。


この辺りの時期がいつかは微妙なところです。


営業やマーケティング部門はまだまだイケイケの考えを持っている人が多かったりするでしょうし、この辺りの意識は部署や人によってバラバラだったりするので、どの時期からデータ分析が必要になると明確に言い切れるものでもないでしょう。


またデータ分析が必要という意識だけが先行してしまうと、それはそれで問題です。


これまでデータ分析がなくてもやってこれていたなら、喫緊の必要に迫られているわけでもないので、成果を出しづらい可能性があります。


そうしてよく聞く、データサイエンティストなどの専門人材を雇って、データ分析基盤を作って、BIツールを導入したけれど、特に効果が見えず投資対効果が全くない、という状況に陥りやすくなったりします。


こうした状況に陥らないようにするには、環境を整えるだけでなく、データ活用の文化の醸成や実際にデータを活用した業務改善も並行して必要になってきます。


特に最近のスタートアップ企業などは、こうした点も見越してか、採用の際にデータ人材でないポジションであっても、データ活用経験や数字への感度や意識の高い人材を好んで採用しようという動きもあるようです。


私が所属しているところも成長途上のスタートアップなので、自分も今まさにそうした状況で、データ基盤等の環境整備とデータ活用の促進の両方に取り組んでいるところだったりします。


あまり詳しくは語れませんが、データ分析以前の雑多な課題が多かったり、分析のニーズや依頼もたくさんあるわけではないので(データに興味ある人が多いので、データ見たいという話は多かったりしますが)、課題やテーマが明確に示された分析の仕事以外はやりたくないという人には向いてないと思います。


ただ、そもそもデータ活用未着手の業務や取り組みが多かったりするので、まだ目に見えていないビジネス課題やまだ顕在化していないリスクを分析したり、新たなデータ活用案を企画したりと色々なトライアル&エラーが試せたりするので、主体的にどんどん動ける人にとっては新たな刺激を受けることも多いのではないかと思います。


ということで、成長産業におけるデータ分析の考察は以上となります。


一応念のためですが、あくまで今回の内容も一例ですのであしからず。


他にももうちょっと色んな業界のデータ分析よもやま話が世に増えてくると色々参考になっていいんですけどね。

衰退産業におけるデータ分析

現状および将来的に市場が縮小してゆき、売上が下がっていく業界があります。


斜陽産業とも呼ばれたりします。


例としてよく挙げられるのは出版・書店・ブライダル・アパレル・テレビなどの業界のようです。


このような業界においては、今後どのような戦略がとられ、その中でデータ分析はどのような役割を担っていくのでしょうか。


衰退産業における今後の経営戦略


まずざっくりと戦略を考えてみましょう。


「市場の縮小」が問題なので、以下のものが戦略として考えられそうです。


・別市場への進出


・新市場の開拓


・現市場での寡占


別市場への進出


現状の市場とは別の業界へ新たに進出し、そこで顧客を獲得するというものです。


当然そこでの競争もあるわけですが、後発であればノウハウなどもあまりなかったりするので、代わりに既存業界と相性が良く既存の技術やチャネルなどを活かすことができるなど、何らかの強みがないと厳しいでしょう。


その業界の既存プレイヤーとどう競っていくかがポイントです。

新市場の開拓


これまでにない製品やサービスを生み出し、新たな市場を開拓していくやり方です。


現在はAI、ロボティクス、デジタル技術などを使って新規サービスがどんどん生まれていることもあり、比較的やりやすい環境と言えるのかもしれません。


いち早くそうしたプロダクトを開発したスタートアップ企業と提携したり、あるいは買収するなどして事業展開しているところもよく見かけます。

現市場での寡占


衰退産業であれば同業他社がどんどん撤退しているので、それを好機ととらえて、その顧客を引き受けることで自社のシェアや規模を拡大できるという可能性があります。


ただし市場そのものがなくなってしまうというリスクもあるため、規模拡大できても一時的でしかないという場合もあります。


市場が縮小しつつあっても、完全になくなるということはなく最低限一定規模は見込むことができるという算段があるなら、そこで寡占企業を目指すのもありかもしれません。



ちなみに上記はどれか一つでないといけないというわけでもないので、複数の対策をとるというのもありえる話ですね。


衰退産業におけるデータ分析の役割


データ分析の役割は、上記の戦略によって異なるものではありますが、まず以下の可視化をするというのはいずれの場合でも基本となるでしょう。


・業界および自社の衰退スピードの把握と見積もり


・戦略に基づく対策の進捗および成果の測定


上記のバランス次第で、現状実施している対策の見直しをかけたり、あるいは早めに損切して撤退するという判断が必要になってきます。


また、もうひとつ「具体的にどうしたら良いか教えて欲しい」というアドバイザリーのような役割を期待されることもよくあります。


「データ分析(データマイニング)すれば何か良い知見が出てくるのではないか」という期待ですね。


こういう場合、闇雲にデータをほじくり返しても大抵何も見つからないので、まずはビジネスの構造を分析することが必要です。


最初に述べた「衰退産業における今後の経営戦略」みたいなやつです。


より具体的に考えを進めるために、さらに構造を深堀してみましょう。


市場というのは顧客ニーズありきでもあるので、まずは起点として顧客のニーズをどのように捉えて分析するかがポイントと思われます。


ここからはもう少し具体的に話してみようと思いますので、例として「書店業界」について考えてみたいと思います。


書店業界の場合


まず、書店業界の現状を確認してみましょう。



【アルメディア調査】2020年 日本の書店数1万1024店に、売場面積は122万坪 - 文化通信デジタル


2020年までのデータですが、書店の数はどんどん減少傾向にあることがわかります。


最近は大型書店の閉店のニュースなども時々流れるようになりましたね。


この要因としては、書籍や雑誌の販売数が減少していることが影響しているようです。




2021年紙+電子出版市場は1兆6742億円で3年連続プラス成長 ~ 出版科学研究所調べ | HON.jp News Blog


ただし、それは紙媒体に限っての話で、昨今は電子書籍市場が拡大していることで、紙+電子媒体だと、むしろプラス成長とのことです。


ここから言えることは、書籍や雑誌を読みたいというニーズそのものは変わっていなくて、購入方法や読書形態の方のニーズが変わっているということです。


書店業界の場合は、リアル書店であるためにその変化しつつある方のニーズへの対応が難しく、書籍や雑誌が欲しいというニーズを十分に拾い切れなくなったということなのでしょう。


では書店もオンライン市場へ進出すれば良いのでしょうか?


何らかの書店の強みを活かせる方法があれば別ですが、既にAmazon楽天などのポータルサイトや大手出版社等がオンライン書店電子書籍の取り扱いをやっている中で、そこに勝負を挑むのはなかなか厳しいでしょう。


かといって、オンラインで書籍を購入してタブレットスマホで書籍を読む顧客を、リアル書店で書籍を購入して紙媒体で読んでもらうように変えるのも難しいと思われます。


ただもし、上記の難関を突破して成功している書店事例などがあれば、そことの違いをギャップ分析して、真似る/近づける/応用するというのはアリです。


では、次に3つの戦略(別市場への進出、新市場の開拓、現市場での寡占)について検討を進めてみましょう。


現市場での寡占はどうか?


書店の場合、基本的に来店するのは近場に住まいの顧客です。


例えばA市の書店が閉店したからといって、そこの顧客が隣のB市の書店にまで足を運んでくれるかというと、距離にもよるでしょうがそう簡単ではないでしょう。


そのため廃業した書店の顧客を取り込むといっても地理的な制約による限界があるため、現市場での寡占はなかなか難しいかもしれません。


別市場への進出はどうか?


蔦屋書店の事例などは有名かと思います。


蔦屋書店は、雑誌・書籍だけでなく、DVDやゲーム、カフェや家電も扱い、ライフスタイルを提案したいというコンセプトのもとに経営されています。


特にカフェ分野については、スターバックスとライセンス提携することで、蔦屋に来店した客が本を買わなかったとしても収入を得られる仕組みが作られているようです。

スターバックスでドリンクを買えば、併設されたTSUTAYAにある本を持ってきて読むことができます。読んだ本を購入する義務もありません。


TSUTAYAにあるスターバックスは直営店ではなく、TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社がスターバックス とライセンス契約を結んで運営しているのです。


要するに、TSUTAYAにあるスターバックスを運営しているのは、TSUTAYA自身なのです。スターバックスでコーヒーが売れれば、それはTSUTAYAの収入にもなるわけです。

スターバックス&TSUTAYAのカフェで、TSUTAYAも儲かる理由とは?



来店客数の多い書店などは、それを活かして例え本が売れなくてもビジネスにつなげることができるという事例です。


書店の集客力というのはかなりすごいみたいですね。


大きな商業施設ではテナントに大体書店が入っていると思います。


書店を訪れたことがないという人はほとんどいないでしょうし、なんなら多くの人が月に数回は来店しているのではないでしょうか。


ちなみに以下のWebリサーチによると、月の平均訪問回数は約2回、平均滞在時間は20分弱だそうです。

http://marketing.asahi-u.ac.jp/wp-content/uploads/2020/02/2002.pdf


日本の生産年齢(15-64歳)を9000万人とすると、書店全体で毎月のべ1.8億人が訪れ、合計5400万時間滞在しているということになります。


ちなみにそのうち本を買う顧客は約3割ほどだそうですが、本を買わなくても折角来店してくれているので、その機会をビジネスにつなげるための企画は色々と考えられそうですね。


例えば、広告媒体としてのポテンシャルを考えてみましょうか。


多くの人を集客できる場でもあるので、そこに広告を掲示するというビジネスは考えられそうです。


購入者向けのブックカバーや栞などには既に広告が掲載されていたりするかと思います。


ちなみに参考までに、銀座線の中づり広告(2~3日)1枠で128万円ほどの売上になるようです。(調査時点)



【電車広告】東京メトロ 銀座線系 中づりポスター シングルサイズ 2日間・3日間|電車広告.com ( 電車広告ドットコム ) 日本最大級の電車広告検索サイト 電車広告の情報満載!


銀座線のユニーク客数が64万人だとすると、1人集客して2円ほどの広告収入が発生することになります。


これを参考にしてみましょう。

<ユニーク客数の見積もり方法>

銀座線の一日の乗降客数は全ての駅を合計すると、約230万人です。
東京メトロ銀座線の駅別乗降客数ランキング


一人が乗り降りするので、のべ人数換算だとその半分の115万人。


基本的に行きと帰りに乗車する人々がほとんどだとすると、ユニーク人数換算だとさらにその半分となります。(約58万人)


二日間の広告だとしても、通勤客だとユニーク人数は同じでしょう。


通勤客以外の客がどれくらいいるかを見積もるのは難しいですが、仮にえいやで1割くらいだとすると、2日間のユニーク客数は約64万人ほどになります。


書店の場合のベンチマークを探してみたところ、愛媛県明屋(はるや)書店さん(年商約140億円)のデータを見つけました。


月のユニーク客数はおおよそ112万人くらいかと見積もってみました。

<月のユニーク客数の見積もり方法>

日本の書店は1日500万人が訪れるメディアだ!


上記サイトより、1日の平均来店数は約7.5万人くらいとのことです。(2017年)


月にすると225万人(7.5万人×30)


書店だと平均来店頻度は月2回なので、明屋書店の月間ユニーク客数はその半分の112.5万人。


広告単価2円とすると、1枠で月に約220万円、年間で2700万円ほどの売上増になります。


広告掲載箇所は、店舗内だと、入口、レジ前、新刊売り場、各ジャンルエリアなどそこそこ用意できそうな気がします。


仮に10~20枠程度用意できるなら、年間売上は2.7~5.4億円ほどになります。


明屋書店さんの2022年の年間売上が約140億円なので、もしこの広告売上がのっかってくると売上が約2~4%アップするということになります。


うーん、思ったほど高くない、、、のかな?


ただ書店の場合、顧客は興味あるジャンルのエリアに来店するので、広告の内容によっては電車のつり革広告よりも高い販促効果を出せる可能性も高そうです。


そうなれば単価をもっと高くしてより売上を伸ばすことも可能かもしれません。


なお上記はあくまで仮定を置いたうえでの試算なので、その通りにいかなかったり、他の課題もあったりして、容易に実現できるものでもないかと思いますが、別市場への進出戦略を考えるひとつの参考例としてご理解下さい。


新市場の開拓はどうか?


基本的には別市場への展開と同じく、既存の強みを活かせる方向で考えないと失敗する可能性が高いと思われます。


書店の強みは何なのでしょうか。


下のアンケート結果などはヒントになるかもしれません。
http://marketing.asahi-u.ac.jp/wp-content/uploads/2020/02/2002.pdfより引用



書店の来店目的で最も多いのは「本を買うため」ですが、次に多いのは「本を物色するため」とあります。


また以下のアンケートを見ると、顧客は「様々な本が充実している」書店によく訪れる傾向があることがわかります。



以上より、何か面白い本はないかな?と本を探す楽しみや新たな本との出会いを求めて書店を訪れる人が多いのではないかと思われます。


オンラインだと目的買いが多いと思われますので、こうした偶然の出会いの場を提供できる点は書店の強みと言えるのではないでしょうか。


では次にこの強みをどのように活かすかを考えてみましょう。


とりあえず仮説を色々列挙してみます。


VR店舗もしくはオンラインショールーム

以下の松屋銀座の書店版みたいなイメージ。KADOKAWAさんなどでも取り組まれているみたいですね。
www.youtube.com


・棚割り、配本、POP(おすすめ情報)等のコンサルティング(TOオンライン書店

偶然の出会いの場の演出オンライン書店にも取り入れられないか、書店のノウハウを活かしたコンサルティングサービス。


・書店員のいるオンラインサロン

お勧め本の紹介や意外な本と出会える方法のレクチャーなど、偶然の出会いの場をさらに活性化できないか、の取り組み。



事例があればデータでもう少し調べられるかもしれませんが、事例のない新規のものであれば、まず試しにやってみてデータで効果検証してみるといった感じでトライアルエラーを繰り返す形になるのではないかと思います。


個人的には、もし巨大なVR店舗(試し読み可能)があれば一日中入り浸ってしまう気がします。(^^;



さて、他にも業界構造を分析すると、出版社や取次との関係、図書館や中古書店との関係、著者や読者との関係、海外市場などなど、業界を取り巻く環境はまだまだ多種多様ですので、データ分析の出番も当然他にも色々あることでしょう。


とはいえ大分長くなってしまいましたので、ひとまず今回は以上で衰退産業におけるデータ分析を書店業界を例に考えてみる、のは締めとさせていただきます。


また機会があればブログ記事にするかもしれません。mm

「解像度を上げる」の落とし穴

少し前から「解像度を上げる」とか「解像度を高める」という言葉をよく耳にするようになりました。


特に顧客理解の場面で使われることが多いようです。


ざっくりいうと顧客理解が粗くあいまいだと解像度が低くて、顧客を細かく具体的に理解できていれば解像度が高い、ということらしいです。


ところで一般的に解像度を上げるとは、画像を拡大して細かい部分も見えるようにするということかと思います。



例えば上記の画像の赤い部分を拡大すると、



こんな感じで、この中にどんな人が何人いるのか、彼らの服装や持ち物はどうか、などよりはっきりとわかりやすくなりました。


ちなみに最初の画像だとあまりはっきりしませんが、上記の画像だと右上にベビーカーにのった赤ちゃんがいるのにも気づきやすくなったりしますね。


このように細かい部分がはっきり見えるようになるのはメリットにつながる可能性はありますが、一方でデメリットもあります。


それは「視野が狭くなる」ということです。


赤い部分の解像度を上げることで、それ以外の部分を意識から切り捨てたり、あるいはあまり注目しなくなったりしてしまうかもしれません。


元々「赤い部分以外は不要」ということならば問題ないかとは思いますが、もしそうでないならば、あるいはそうでないことに気付いていないならば、危険です。


顧客理解の例で言えば、顧客の解像度を上げるために、とある顧客にデプスインタビューを実施したとしましょう。


それによってその顧客の考えや価値観などを深く理解することができ、製品改善のヒントをつかむことができました。


しかし、一方でインタビューをしていないその他顧客のことは頭から消えてしまいやすくなります。


デプスインタビューによって見つかった製品改善のヒントが、別の顧客にとってはひょっとすると改悪であったりする可能性もゼロではありません。



あくまで見ているものの対象が適切であるという前提において、もしそこに曖昧さがあれば解像度を上げて具体化するのは有効かもしれません。


しかしそもそも見ているものが適切な対象ではない場合、解像度を上げても見るべきものは見えてきません。


この時、では別のものを見てみようと考えを切り替えられるならばまだましなのですが、そうではなくさらに解像度を上げて細かく見ようとしたりすると泥沼にはまる可能性が上がります。


ただし、見る対象を切り替えても見たいものが見れないことが続く可能性も低くないでしょう。


こうした場合、より良いのは解像度を下げてより広い視野で俯瞰して見てみることです。


そうすることで抜け漏れの予防や重複・手戻りの予防等がしやすくなり、本来したいことの成功率や効率もアップする可能性が高まるでしょう。


データ分析(主にデータマイニング)ではよく聞く話ですね。


解像度を上げることだけに捕らわれすぎずに、時には解像度を下げて広い視野で物事を見るべき場合があることも意識しておいた方が良いかと思います。

産休・育休中の学び直しについてデータを使って考えてみる(続き)

先日書いたブログ記事について、私の分析の甘い点についてのご指摘とアドバイスを頂きましたので、そちらについて追加で記事を書いてみたいと思います。


custle.hatenablog.com


育児に費やす時間のところです。

またちなみにですが、6歳未満の子供を持つ夫婦の育児に要する時間は以下のようです(2021年)


妻・・・4時間
夫・・・1時間


https://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2022/011556.php


前の記事では上記のデータを紹介していましたが、ここでポイントとなるのは「6歳未満」という部分です。


育休の取得条件は基本的には子供が1歳までということなので、6歳未満のデータとなるとちょっと幅が広すぎないか?とのご指摘でした。


確かにごもっともで、1歳未満の子供であっても上記の数字と同じくらいの育児時間と見なして良いかというと、そんなことはなさそうですね。


ちなみに上記データは「乳幼児」のデータとなっており、乳幼児とは「乳児(1歳未満)」と「幼児(1歳から小学校就学まで)」を合わせた言葉とのことです。


乳幼児 - Wikipedia


残念ながら乳児、すなわち1歳までの子供に関する育児時間というのは、そのものズバリのデータはちょっと探してみても見つかりませんでした。


とはいえ子供は幼ければ幼いほど手がかかるものでしょうし、少なくとも1歳児と5歳児の育児時間に差があることは想像しやすいことでしょう。


ご指摘下さった方からは、乳児の場合一日の睡眠時間が長く、しかしその間は育児不要というわけではなく、乳児は頻繁に目を覚ますので、都度世話が必要になり、結果的に育児に相当の時間がかかるとのことでした。



赤ちゃんの睡眠時間 | まとまって寝るようになるのはいつ?-おむつのムーニー 公式 ユニ・チャーム


ただ上記の画像などは、おおよその目安という意味では参考とみなせるのではないかとは思います。


たしかに0~3か月ないしは6か月目くらいまでは、細切れの睡眠になってしまっているので、夫婦サイドもまとまった時間をとるのも厳しそうです。


ということで、実態にそぐわないデータで話をしてしまった点は、自分としても反省です。


以上より、育休期間中(特に子供が生後3か月ないしは半年くらいまでの間)にリスキリングしたいとか他のことに時間を費やしたいと言っても非常に難しいだろう、と考えられます。


とはいっても、前回の記事でも紹介したように、復帰後の仕事やキャリアに不安を持っている人も一定数いるのは事実のようなので、そうした方々への不安解消も必要になると考えられます。


となると、リスキリング云々以前に、育児に対する負荷をどう下げられるか?(育児時間を減らしてその他の時間を確保できるか?)が課題となりそうです。


育休というのは時間確保のひとつの方法ではありますが、あくまでそれまで仕事など他に費やしていた時間を育児の方に振り分けられるようにするものであって、育児時間そのものを減少させるものではありません。


育休をとることでその後の仕事やキャリアに対する不安が生じるのであれば、それらに関して多少なりも悩んだり対策をとれるなら取りたいと思うのは不自然なことではありません。


しかし、育休中にそのための時間が欲しいと思っても、それはなかなか叶わない可能性が高いので、「如何に育児時間を節約できるようにするか」のサポートが政府として優先度を上げて取り組んでもらうべきことなのかもしれません。


生後0~3か月ないしは6か月の間はかなり手がかかるのでそこへの介入はなかなか難しいかもしれませんが、それ以外の期間になってくるとベビーシッターや保育園などの活用が可能になってくるでしょうから、そうした施設等の活用促進というのはキーになると思われます。


ただ昨今話題になっているように、保育士の人手不足などによって、保育園に入れたくても入れられず待機児童が増加しているといった問題は少し前からよく聞こえてきました。


自分はこの問題はまだそれほど解決していないのかと思っていたのですが、しかし少し調べてみると実際にはこの問題に対する改善は年々進んできているようです。



https://www.mhlw.go.jp/content/11922000/000979629.pdf


まだまだ完全に解消されたというわけではないのでしょうけれども、年々待機児童の数は減少し、待機児童のいない自治体も増えてきているようです。


保育園は最短で生後2か月から預けられるそうなので、保育園預け入れが可能になってそれ以降時間的余裕が多少なりとも確保できるようになってくれれば、ようやく仕事やキャリアの不安を持つ方々もその悩みに取り組むのも可能になってきそうですね。


政府としてもこうした目処が立ってきたから、次に彼らの復帰後の仕事やキャリアのサポートにも取り掛かろうということなのかもしれません。


引き続きこうした待機児童への対応や育児の負荷低減の対策は進めて頂くことを期待しつつ、ただ、とはいっても前の記事でも少し触れましたが、そうした方々が政府に求めているものが「リスキリングの後押し」なのかは疑問が残るので、そこはしっかり調査・検証した上で優先度も考慮し、適切な施策を順次実施していただきたいとは思うところです。



さて、ちょっと本テーマのデータ考察について、少し振り返ってみようと思います。


ひとつ反省点としては、この記事の最初にも書いたように、実態とズレのある可能性の高いデータで議論してしまっていた点、こうしたことは今後も起こり得ることなので、データの定義や範囲については極力最初に気に掛けるようにしたいところです。


もう一つは、データで考えるということ。今回炎上の件では「政府の考えは育児してない人の発想」という意見が出ていました。


確かに実際に経験している人でなければわからないことがあるのは然りです。


そうした経験から発想される課題感や対策などの意見は無視できないものかとは思います。


ただ逆に経験者が、その経験や考えを全てと思い込んでしまうのも危険なことではないかと思います。


どうしても声の大きな人や反対意見というのが目立ってしまい、そうではない意見を持つ人は実はたくさんいるのに黙っているだけ、ということもあり得るからです。


サイレントマジョリティというやつですね。


なので、目立つ意見とは異なる意見や逆の意見はないのかとか、反対意見が多数ならばなぜそうした意見がそもそも発生したのかとか、そうした裏側も気にしてデータを調べてみることは重要ではないかと思います。


今回で言えば、リスキリングに肯定的な人はいないのか?とか、


そもそもどうして政府にリスキリングの発想が出てきたのか?とかそういったイメージでしょうか。


リスキリングに関しては元々別で動いていた取り組みで、育休中の人も対象にできるようにするというだけの話だったようですが、育休の部分が変に切り取られて過剰に反応されてしまった結果のようですね。


いずれにせよ、なるべくバイアスのかかった見方にならないように、データを集める際にも一面的な観点でデータを探していないかとか、見るべきデータを見逃していないか、といったことは気を付けたいところです。