性年代別集計の人気の高さと実用性の低さ

顧客データを分析・レポートする際に、性年代別の人数や構成比を集計したことがある人はたくさんいるのではないかと思います。


性年代別集計は、顧客の特徴を示すのに最も典型的なレポートなので非常によく利用されていることでしょう。私も過去色んな案件でよく集計していましたし、他のレポートでもよく見かけます。


性年代別集計の実用性の低さ


確かに、性年代別の特徴から見えてくる傾向もあります。


例1)シニアな顧客が増えている

例2)若い顧客が減ってきている

例3)男性向けの商品なのに中年女性がよく購入している(代理購買)

例4)女性向けの商品なのに若い男性も一定数購入している(プレゼント需要)


しかし、そうした傾向がわかったところで、何らかの意思決定や施策実施につなげることができたというケースはこれまでほとんど見たことがありません。


もし例1のようにシニアな顧客が増えている傾向が確認できたからといって、果たしてどのようなアクションにつなげられるでしょうか?


今はシニア顧客が獲得しやすいから新規のシニア顧客獲得施策を実施する?


あるいはその逆に若い顧客が減っているからなんとか若い顧客の獲得を回復するための施策を行う?


どちらもデータを元にした判断のように見えますが、実際のところはそのデータだけでは顧客の増減の因果関係が不明なので、成果が見込めるかどうかもわかりません。


また人数だけでなく、顧客のロイヤリティにも差があったとしましょう。

顧客 平均客単価
シニア顧客 5,000円
若い顧客 1,000円


この場合、既存の若い顧客の客単価を上げるためにはどういったことが考えられるでしょうか?


若い顧客をシニアにすればよい、とは考えないですよね。そもそも顧客の性年代に関して第三者が介入して変えられるものではありません。


また性年代は顧客の特徴の単なる一面でしかないので、それを元に何かの施策を考え付くといったことなども難しいでしょう。マーケティングなどに活かすとなると、性年代よりは行動履歴関連のデータのほうが実用性が高いと思われます。


Amazonなどで商品をおすすめする仕組みも、購買履歴等が元にされており、顧客の性年代データは使用されていないようです。


Netflixなどはプロダクトの責任者がレコメンドに顧客の性年代データは必要ないと明言しています。


xtrend.nikkei.com


性年代別集計の人気の高さ


実際のところ、顧客の多様かつ大量の行動履歴データが分析できるようになっている現代において、その一つでしかない性年代データは顧客の各種分析において必須であるかというと必ずしもそうではないと思います。


にも関わらず、性年代別データは色んなレポートに非常によく含まれており、大変人気の高い(ように見える)分析手法になってしまっています。


なぜなのでしょうか?


仮説1)性年代は顧客の特徴を表すものとして最も想起されやすい代表的なデータであるから


仮説2)昔は性年代データくらいしか分析できなかった。その名残がいまだに続いている


なかなかこれら以外の仮説は思いつかなかったのですが、やはり上記のように過去から続く単なる慣習のようなものなのでしょうか。


性年代別集計の不確かさ


性別で分ける場合、LGBTの方々はどのカテゴリになるのでしょうか。第三、第四のカテゴリを用意するのか、既存の男女のどちらかに自己申告してもらうのでしょうか。


参考までにLGBTの消費・サービスの市場は2015年でおおよそ6兆円と見積もられており、かなりの規模になっているようです。


www.outjapan.co.jp


また、顧客の売上推移など過去のデータを年代別で見たい場合、正確に集計するには集計ポイント時点の年齢を計算しなければなりません。


2015年4月の年代別データは、2015年4月時点の年齢で集計します。
2016年4月の年代別データは、2016年4月時点の年齢で集計します。
2017年4月の年代別データは、2017年4月時点の年齢で集計します。
2018年4月の年代別データは、2018年4月時点の年齢で集計します。
2019年4月の年代別データは、2019年4月時点の年齢で集計します。


BIレポートなどで自動的に都度データを洗い替えるような実装がされていると、過去の売上データも現時点での年齢で集計されていたりして不正確なものになっているということもあります。


さらに集計期間が長くなると、どの時点の年齢で計算すべきか悩ましい場合もあります。(2018年の年間売上を年代別にレポートだと、2018年のどの時点の年齢で計算すべきか?1月?4月?12月?)


ケースにもよりますが、集計ロジックで正確な計算を行うよう考慮するというより、不正確といっても正確な値から大きくずれるものではないので誤差として無視されているのが実態ではないかと思われます。


とはいえ、このズレによって社会人を学生と認識してしまう、大きなライフイベントを誤認してしまう可能性も考えられるため、1to1マーケティングのようにより顧客1人1人に向き合うようなマーケティングを行う場合にはあまり好ましくない影響をもたらすかもしれません。


性年代別集計を行う理由


性年代別集計の実用性・人気・不確かさについて考えてみましたが、このような集計を行う・求める方々にも、思考停止せずに「なぜ性年代別集計を行うのか?」一度立ち止まってその必要性をよく考えてみても良いかと思います。